ウォーターフォールは時代遅れ?アジャイルと比べながら有効なケースを検討
2010年代以降、徐々にアジャイルが増えてきました。2018年にはDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでアジャイル人事の特集が組まれました。そして日本ではDXの波に乗って、2020年以降から急激にアジャイルが普及してきました。
ここで気になってくるのが、ウォーターフォールはもう時代遅れなのか?ということです。
今回はウォーターフォールの特徴や時代遅れと言われる理由について考え、アジャイルよりもウォーターフォールを活用した方が効果的なことについて検討してみます。
ウォーターフォールが嫌だという方も、アジャイルに興味がある方も、アジャイルを疑っている方も、是非読んでみてください。
一応最初に断っておくと、私はウォーターフォール及びウォーターフォールに固執する文化の会社が嫌いです。特に後者が嫌いで、柔軟な発想や変化への対応というマネジメントにおいて重要なことをしない傾向が強いと感じています。
ウォーターフォールとは
ウォーターフォールの進め方
ウォーターフォールとはプロジェクトの管理手法の1つです。
ウォーターフォールでは工程を上流から順に1つずつ進めていきます。各工程にはゲートが設けられているイメージで、その工程でやるべき作業が全て完了しないと次の工程に進めません。
それゆえウォーターフォールではやるべきことと期間を最初に決め、キッチリとした計画を立てます。そうしないと各工程での作業が決まらないからです。
ウォーターフォールのメリット
ウォーターフォールにはメリットがあります。
まず最初にキッチリとした計画を立てるため、予算と納期が明確になります。
また最初にやるべきことすなわちゴールと道のりを決めますので、最短距離でゴールにたどり着くことができます。
その他にも品質を確保できるというメリットもあります。各工程でやるべき作業を完了させないと次の工程に進めないため、各工程の完了条件が門番の役割を果たすからです。その工程で基準とする品質に達さないと次に進めないのです。
これら以外ですと、プロジェクト全体の作業内容と期間が決まっているため、進捗が進んでいるか遅れているかを把握しやすいというメリットもあります。
ウォーターフォールのデメリット
ウォーターフォールは最初にゴールと道のりを決め、キッチリとした計画を立てます。それゆえ途中での計画変更が難しいというデメリットがあります。
またプロジェクトの後半にならないとプロジェクトの成果物が出来上がらないため、顧客との認識のずれが発覚するのに時間がかかります。ときにはプロジェクトの後半で、成果物に対する顧客との認識違いが発覚し、大きな手戻りが発生することもあります。
その他のデメリットとしては、ウォーターフォールは一度に大きな成果を出す長期間のプロジェクトとなるがゆえ、プロジェクト期間中に顧客の要件が変わったり、市場のニーズが変わったりしてしまうリスクもあります。
ウォーターフォールが時代遅れと言われる理由
変化が速い時代になったから
柔軟性が低いゆえ変化に対応できない
昨今はVUCAの時代と言われています。変化が激しく先が読めない時代ということです。詳細はここでは解説しませんが、パーソルのリンクを貼りますので、気になる方は読んでみてください。
VUCAとは?意味や時代に合わせた対策・必要な組織作りを解説
変化の速い時代において、長期間かけて新規事業や新製品を開発していたら、市場や顧客のニーズが変わってしまいます。ニーズに素早く対応するという点でウォーターフォールは不利です。
これがウォーターフォールが時代遅れと言われるようになっている理由の1つです。
変化が速く、次々に新しい技術や流行が出てくるのがVUCAの時代です。このような時代では素早く方向転換することが大事です。
しかしウォーターフォールは事前にやるべきこと(ゴール)とやり方(ゴールまでの道のり)を決める手法です。そしてプロジェクト期間も長くなります。これでは激しい変化に素早く対応できません。
大きな計画変更が必要になってしまいますし、白紙に戻した方がいいなんてことになったらとても残念です。
顧客とのコミュニケーションが少ないゆえニーズへの対応が遅れる
ウォーターフォールでは上流工程から順に工程をこなしていくため、動く製品を顧客が見ることができるのがプロジェクトの後半になってしまいます。
このタイミングで顧客とコミュニケーションを取り始めても遅いです。「イメージしていたのと違う」、「これじゃ使えない」という話はありがちです。そして「こんなはずじゃなかったのに…」という落ちになります。これは珍しい話ではありません。
残念ながら私も中止になったプロジェクトの話を聞いたことがあります。完成したシステムを顧客に運用テストしてもらったら想定外だらけで、使い物にならないから中止するという話です。これは決して珍しくないという残念な現実があります。
このように出来上がったシステムを運用テストとしてユーザーに使ってもらったら、使い物にならなくて問題が噴出して中止になったという話は珍しくないのです。
これを解決するために設計の時点で顧客にプロトタイプを見せるという方法も存在します。
正解がない取り組みが増えたから
ここまでウォーターフォールのデメリットを書いてきました。じゃあ今まではなぜウォーターフォールが使われていたのかというと、そもそも20世紀までは変化が緩やかでイノベーションも今ほど頻発に起こらなかったからです。
それゆえ多くのケースにおいては上手く行っている事業や製品を真似て、先人たちがやっている上手く行っているやり方をすればよかったのです。言い換えると先を見通しやすく、お手本とも正解ともいえる対象が多い時代だったのです。
それがVUCAの時代になって、新しいことをやらなければならなくなりました。新しいことは先人がいない、あるいは少なく、お手本や正解も少ないのです。
モノ不足で作れば売れた時代から、モノ余りで前例がないモノや付加価値の高いモノなどを、素早く変化する流行の中で作る時代になったのです。
こういう時代においては今までにない売れるモノを模索していく必要があります。ニーズを見たり、新たな価値観を世の中に見せたりしなければいけません。
実験を繰り返したり、顧客に見せてフィードバックをもらったりしながら製品を開発していく必要があります。
決め打ちで「これなら売れるはず!」と言ってヒット作を出せるほど甘くはありませんし、それでは運任せです。
よって今の時代はウォーターフォールで最初からゴールを定めて、やり方も決めて、決まった期間内に決まった予算で終わらせるという方法では、ヒットする製品・サービスを新たに生み出すことは難しいのです。
競争のスピードが上がっているから
昨今では次々に新しい製品やサービスが登場します。またサブスクリプション型の製品・サービスも増えました。そしてこれらはバージョンアップを繰り返します。これはウォーターフォールで毎年予算を取って、半年や1年もかけてやるのとはスピード感が違いすぎます。
かつてはソフトウェアも1年か2年毎にバージョンアップしていましたが、今では毎月のようにバージョンアップします。
流行の変化が激しく、数年おきに新しい技術が出てくる昨今では、素早く変化に対応することが重要です。それゆえ製品・サービスを開発する企業は頻繁にバージョンアップを繰り返して、継続的に機能を追加・改善することで競争力を強化しています。
またこのような企業は実験を頻繁に繰り返しています。例としてチョコザップを挙げます。
以前がっちりマンデーにチョコザップが出たのですが、頻繁に一部の店舗で試験的に器具やサービスを導入しては効果を測るということを繰り返しています。そして好評なら全店舗に展開します。もはやアプリやシステムはもちろん、リアル店舗などのサービスもこういう時代です。
https://topics.tbs.co.jp/article/detail/?id=19440
こういう取り組みを1週間~1ヶ月という単位で繰り返すなら、ウォーターフォールでは遅いです。結果を見ては次の施策を考え、設計、製作/実装、テストを行って導入というサイクルを素早く繰り返す必要があります。まさしくアジャイルのやり方です。
ウォーターフォールが有効なケース
ここまでウォーターフォールについて、特徴や時代遅れと言われる理由を解説してきました。
ここからは未だにウォーターフォールが有効なケースを紹介していきます。いくらウォーターフォールが時代遅れと言われても、私はウォーターフォールが有効なケースはなくならないと考えています。
ゴールもやり方も解っているケース
ゴールもやり方も解っている場合はウォーターフォールが速いです。ウォーターフォールは最初にゴールと道のり、つまりやるべきこととやり方を決め、最も効率良くできる方法を選択します。そしてそれを前提とした計画を立てます。
ということはゴールもやり方も解っているならウォーターフォールの方が最短距離でゴールに向かえるのです。
一方で昨今増えているアジャイルでは、反復する度に方向性ややり方を検討します。よってゴールもやり方も解っていることをアジャイルでやると、紆余曲折を経ながら進むことになるため、時間がかかります。
ウォーターフォールの方が有効な具体例
ウォーターフォールの方がアジャイルよりも有効と私が考える例をいくつか挙げます。
日常的な例
例 | 理由 |
---|---|
旅行 | チケット予約、ホテル予約、ガイドブックの読み込み、 ルート選定など事前にやっておいた方がよいことが多い。 当日にチケットを買ったり、ホテルを探したりするのは非効率。 当日に観光場所やルートを調べるのも非効率。 |
出張 | 旅行と同様。 |
恒例のイベント | 毎年恒例でやっている祭りや会社の忘年会などは、 やることが大体決まっている。 また前回の資料が残っている可能性もあるし、 前回の幹事に聞けば必要なことが解る。 |
よく作る料理 | 初めての料理だと失敗も多いが、 よく作っている料理なら道具や食材、手順が解っている。 それゆえ事前に必要なものを洗い出して買い物に行けばいい。 |
仕事における例
上記で挙げた例は日常的なものですが、仕事でもウォーターフォールが有効なケースはあるでしょう。例えば毎月恒例の会議などです。
これらはパターン化されているので、事前にやるべきことを洗い出して段取りを決めて順にやって行けばいいでしょう。むしろ時期が近くなってから場当たり的に準備していたら仕事ができない人と思われます。
他の例で言うと、建設業は未だにほぼウォーターフォールです。まず土地を確保して建物を建てるためには莫大な資金が必要です。この時点でとりあえず土地を買って建物を建てて、ニーズを見て建物の形や用途を変えようというのは困難です。
だから最初に建物の目的・用途と利用者を決めなければいけません。マンションならどういうターゲット層が住むのか、商業施設ならどういうターゲット層に来てもらうためにどんなレイアウトでどんなテナントを入れるのかです。
土木の場合も、例えばトンネルや橋を作るに当たって、トンネルや橋を繋げる目的地がコロコロ変わることはないでしょう。こんな大掛かりな作業なら最初から目的地を決めて取り掛かるでしょう。
ただし建設業の場合はフロントローディングが重要です。建物を途中から作り変えることは困難なため、要件定義や設計の時点で顧客(施主)と完成系のイメージをしっかりすり合わせておかないといけません。
昨今はCADやBIMなどのツールが充実していますので、これらを使ってイメージをすり合わせておくのがよいです。
ちなみにコンピュータ上でシミュレーションすることで、建築というウォーターフォールが中心の世界でほぼ予算と納期を守っている建築家がいます。フランク・ゲーリーという建築家です。
フランク・ゲーリーのプロジェクトマネジメントがDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューで紹介されたこともあります。とても納得できる内容でした。
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9668
ウォーターフォールよりアジャイルの方が有効なケース
やってみないと解らないこと
前例のない初めての取り組みではアジャイルが有効
昨今は新規事業や新製品、イノベーションの必要性が高まっています。モノが十分に行き渡った現代では、ただいいモノを作れば売れるわけではなく、顧客のニーズに合いつつも今までにない発想が求められます。
そういう理由もあって、前例のない初めての取り組みが増えています。このような取り組みでは仮説検証型のアプローチが必要であり、実験を繰り返して技術やプロセスを確立していきます。
またこのような前例のない初めての取り組みでは、事前に必要な道具やコスト、期間を知ることは困難です。理由はやってみなければ解らないからです。
やり方を確立するのにもアジャイルが有効
新製品を開発するに当たって、実験しながら作り方を模索していくにもアジャイルのような反復型の手法が役立ちます。逆にこういうケースではウォーターフォールは弱いです。
新製品の生産方法を反復型開発で確立した事例で私が好きなのが獺祭です。
獺祭は元々は杜氏が作っていましたが、代表が杜氏に技術的な無茶ぶりを繰り返した結果、杜氏が不満を抱いていました。そして業績が悪化した際に杜氏に見限られてしまいました。
そこで獺祭は杜氏に頼らず普通の会社員が標準化された方法で酒を造る道を模索しました。このときウォーターフォールではなく反復型の製品開発を採用しました。
日本酒の仕込みは月曜から始めると金曜日に一通り終わるそうです。そして次の月曜日には若干発酵した状態になるそうです。
そこで1週間毎に水分量や温度、湿度、米の磨き具合などのパラメータを変えて、若干発酵した仕掛品のデータ取得や味見を繰り返したわけです。こうしてデータドリブンな方法で獺祭は生産プロセスを標準化しました。
アジャイルで反復型で実験を繰り返せば、やったことがないことでもやり方を確立できるのです。これはウォーターフォールではできないことです。
そして昨今は新規事業や新製品などやったことがない新しい取り組みが増えています。これではウォーターフォールが時代遅れと言われるのも無理もありません。
初めての取り組みなら起業家が参考になる
前例のない初めての取り組みといえば、起業家がやることがいい例です。
今まであまり見たことないけど、世の中に困っている人がいるような製品・サービスを作るのが起業家です。しかし顧客がいいと思えるもの(作り手がこれは力作だと思えるものではありません)を作ることは簡単ではありません。顧客のニーズを確実に当てることは困難だからです。
そこで起業家はリーンスタートアップと呼ばれる方法を使います。最低限の機能を持った製品を作り、顧客に見せてみるのです。ダメならピボットすなわち方向転換します。
こうやってできるだけ短期間に顧客の反応を集めることで、売れる製品になるのに必要な情報や知見を集めていきます。
もし今まであまり見たことがない製品をウォーターフォールで長期間の開発で作ってしまい、しかも顧客の反応が悪かった場合を考えてみましょう。
残念ながら時間とお金を沢山損してしまいます。顧客の反応から学べることはあるでしょうが、そこまで作り込まずとももっと早く顧客の反応を得る方法はあるのです。
よって前例のない初めての取り組みはアジャイルで反復型で進めたり、リーンスタートアップのように最低限の機能で顧客の反応を確かめたりする方が確実です。
あるいはデザイン思考でプロトタイプを使った顧客の理解に努めるのもいいですね。
継続的な改善が必要なこと
先ほども少し書きましたが、昨今はサブスクリプション型の製品・サービスが増えています。
MicrosoftのOfficeも法人ではOffice365というサブスクリプション型がよく使われています。
YouTubeが増えている昨今ですが、動画編集ソフトも売り切り版とサブスクリプション型があります。売り切り版だとバージョンアップ時はアップグレード版を買う必要がありますが、サブスクリプション型だと自動的にバージョンアップができます。
Adobeのソフトもかつては2年に1回バージョンアップしており、その度にパッケージで売り切り版が出ていました。しかし今はサブスクリプション型で随時バージョンアップです。
このようにサブスクリプション型で製品・サービスを売る場合は、継続的に製品のバージョンアップ(とはいっても大がかりなものではなく、機能追加や機能改善が主ですが)を行う必要があります。
これをウォーターフォールでやると、毎年予算を取って半年~1年かけてやることになります。
毎年バージョンアップする製品がないわけではないです。しかし随時バージョンアップの競合製品がある場合、このやり方でいいかどうかはよく検討した方がよいでしょう。
継続的にバージョンアップを行い、顧客を惹きつけ続ける製品・サービスを作るのがサブスクリプション型のビジネスです。
このような場合はウォーターフォールは不向きであり、アジャイルが向いています。アジャイルなら1週間~1ヶ月の期間単位で優先度や効果の高い施策を打つことができますし、チョコザップのように実験を繰り返すことも可能だからです。
終わりに
IT業界ではよくないイメージを持つ人もいるウォーターフォールが時代遅れと言われるようになった理由と、未だにウォーターフォールの方が有効なケースを検討してみました。
私はウォーターフォールの柔軟性のなさが嫌いですが、キッチリと事前準備をして計画的にやったことがいいことがあることも知っています。
ウォーターフォールとアジャイル、どちらが優れているか?ではなく、どちらが今やろうとしていることでは適切か?を考えてやっていきましょう。