プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのやり方を例付きでわかりやすく解説

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プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは戦略コンサルファームのボストン・コンサルティング・グループが開発したフレームワークです。

事業展開をどうやっていくか、投資するか撤退するかなどの判断に使えます。また複数の事業を俯瞰して見ることで、お金を稼いでいる事業、もっと投資した方がいい事業、撤退を検討する事業などが見えてきます。

今回はプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントについて解説します。そして架空の会社や実在の会社を例にして、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのやり方を解説します。

ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。

最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。

最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは事業管理のフレームワーク

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントとは

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントは縦軸に市場成長率、横軸に相対マーケットシェアを取り、2×2のマトリクスで事業を4つの領域に分類するフレームワークです。

ちなみにポートフォリオとはクリエイティブ系で作品集、金融で投資先・融資先の構成内容のことを指します。事業において、ポートフォリオとは所有している事業の構成内容を指します。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの4つの領域
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントでは事業を金のなる木、花形、問題児、負け犬の4つの領域に分類します。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで複数の事業を管理できる

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントを使うと、自社が所有している事業がそれぞれどのような立ち位置にいて、どんな対応を取ればよいかが解ります。

儲かっているけど市場も成長しているなら、更なる投資で更なる儲けを追求すればよいです。

儲かっているけど市場が成熟しているなら、いかに効率良く儲けるかを考えればいいです。

儲からない上に市場も大きくなる見込みがない事業は撤退を検討します。

市場が成長しているなら、相対シェアを上げれば稼げる見込みがあります。そんなときは相対シェアを上げればいいです。

このように市場の成長状況や競合と比べた相対的なシェアで、各事業をどういう方向性に持って行くのかを検討できます。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの4つの領域

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントでは事業を4つの領域に分類します。ザックリまとめると次の表のようになります。

事業区分市場の成長率相対シェア対応
金のなる木低い高い市場衰退まで稼いで投資資金を得る
花形高い高い投資して金のなる木へと育てる
問題児高い低い投資して花形へと育てる
負け犬低い低い撤退する
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの4つの領域

それぞれについて順に解説していきます。

金のなる木

金のなる木は低成長率(あるいは市場衰退)かつ高シェアの事業です。

多くの企業には長年やっている主力事業があります。成長中の企業の場合は別として、20~30年も続いている企業なら、主力事業は十分に稼ぎ頭となっている可能性が高いです。そのような事業は金のなる木です。

金のなる木は市場成長率が低いため、市場が大きく成長する可能性は低いです。よってシェアを維持し、投資は控えめにし、効率良くキャッシュを稼ぐことが必要です。

ここでいう市場とは業界だけとは限らず、製品の場合もあります。旧式の製品ならそろそろ最新技術を搭載した新製品へとモデルチェンジしたいでしょう。そうでなければ技術的に古い製品はいずれ売れなくなるからです。

このような製品ライフサイクルの後半にある製品も市場成長率が低いでしょう。一昔前ならガラケーとスマホですね。ガラケーは旧製品で市場衰退、スマホは新製品で市場成長でした。

携帯電話市場の規模は一定でも、製品ライフサイクルがあるために旧製品と新製品で衰退市場と成長市場に別れたのでした。このように業界だけでなく製品カテゴリーでも市場が存在することには気を付けましょう。

花形

花形は成長中かつ相対シェアも高い事業です。花形という名前にふさわしい事業ですね。

市場が成長しているということは、投資をして売上を増やした方がいいということになります。よって花形事業では利益が減ってでも投資を優先した方がいいです。

そして投資を続けた先に効率良くキャッシュを稼げる金のなる木になる可能性があります。

問題児

問題児となる事業は現時点で問題児という意味で、ずっと問題児なわけではありません。

現時点では市場は成長しているものの、シェアを取れていない事業が問題児です。よって投資をして育てれば花形になる可能性もあります。

一方で問題児のままだったり、市場の成長が鈍って負け犬になってしまったりする可能性もあります。

問題児である事業が投資によって伸びるかどうかはやってみないと解りません。伸びる事業を当てられるなら、多くの人が起業して成功できます。しかし現実はそうではありません。

私の意見としては問題児事業はイノベーション論のようにやってみないと伸びるか解りません。よって問題児事業が1つなら投資してみればいいですし、2つ以上あれば少しずつ投資して見込みがあると判断できるものに絞ればいいでしょう。

負け犬

負け犬は市場の成長率も相対シェアも低い事業です。

頑張ればシェアを取れるならよさそうですが、市場が成長しないのでメリットも小さいです。

よってさっさと撤退して次の事業を作るか、既存の花形か問題児の事業に投資した方がいいということになります。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのやり方

次はプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのやり方を架空の企業や実在企業を例にして解説します。

架空の飲食チェーンA社の例

A社の事業の概要

A社は20年以上スイーツカフェを運営している会社です。高価格帯の手の込んだパフェやパンケーキ、かき氷などを提供しています。

元から美味しさでファンがいましたが、SNSが普及して以降、SNS映えを求めて行列ができるくらいになりました。

こうして出た利益で、新規事業を始めました。それが創作料理居酒屋、健康定食屋、タピオカドリンク屋でした。SNS映えという時流に乗って稼げたので、今後伸びそうという意味でこれらの事業を選びました。

これからの飲食店は安いチェーン店よりも、個性がある店が伸びるとA社の社長は考えました。また健康意識も年々高まり続けているため、健康を意識した食事もニーズが増えていくとA社の社長は考えました。

創作居料理酒屋はSNS映えする料理にSNS映えするデザートで人気を得ました。近年は新店舗の出店に力を入れています。

健康定食屋は意外とライバルが多く、またニーズはあるもののまだまだ市場規模が小さいという悩みがあります。とはいえ売上高は伸びています。

タピオカについてはブームが来たときにタピオカドリンクの店を出しました。しかしブームが去ってしまったため、近年は客数が落ちています。

A社の事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理した例

A社の事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理してみましょう。

事業分類対応
スイーツカフェ金のなる木行列もでき、価格帯も高いため利益が出ている。このまま稼ぎ続ける。
創作居酒屋花形スイーツ同様に高価格で美味しくSNS映えする商品を提供できており、伸びている。
強みがある居酒屋は今風なので投資を続ける。
健康定食屋問題児健康意識は今後も高まり続けるため、メニュー開発などの投資を続ける。いずれ新店舗展開もできたらいい。
タピオカドリンク屋負け犬ブームが去ってしまった上、ゴンチャという強力な競合もいるため撤退した方がいい
A社の事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理した例

既に十分に稼いでいる事業は金のなる木です。A社ではスイーツカフェが該当します。

現在伸びている事業が花形と問題児に該当します。伸びていてなおかつシェアを取れている事業は花形です。顧客数や売上高が高くて儲かっていればシェアを取れていると考えられるでしょう。

タピオカはブームが去って、タピオカドリンク屋は大量閉店したそうです。しかしゴンチャはタピオカドリンクをメニューに残しています。ゴンチャは店舗数も多いですし、タピオカドリンクで競うのは厳しいでしょう。

https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000314106.html

ちなみに本来は横軸に使う相対シェアは、1位なら2位と比べたシェア、2位以下なら1位と比べたシェアです。しかしこれだと1位を取れている事業かどうかという話になってしまいます。現実には1位を取るには業界No.1の大企業を除けば、ニッチ市場でもなければ難しいです。

もっと広く使うなら、市場シェアが上位かどうかという観点でもいいのではないかと私は考えます。1位でない企業の方が多いのですし。

架空のIT企業B社の例

B社の事業の概要

B社はIT業界で事業を展開しています。B社が展開する事業は、SES(システム・エンジニアリング・サービス)と呼ばれる技術者派遣、システムの受託開発(請負契約によるシステム全体の開発)、自社製品(SaaS)、レガシーシステムの運用・保守です。

IT業界は仕事の7割が技術者派遣と言われており、派遣ゆえ差別化も難しく、レッドオーシャンな市場です。しかし近年はDXの波もあり、IT人材不足が叫ばれています。それゆえ仕事量は増えていて、成長中の市場であると言えます。

B社の売上高の6割を占めているのがSESです。派遣なので人件費に利益を乗せた金額を顧客にチャージしています。よってやればやるほど利益が増えます。営業してアサイン枠さえ取れれば利益が出る美味しい事業です。

しかしSESは主に元請けの会社に下請けを集めるために使われる方法です。ゼネコンが管理する建設現場に下請けの建設業者の職人が集まるのと同じ構図がIT業界にもあります。

つまりSESの仕事は下請けの仕事であり、プロジェクトにおけるマネジメントや要件定義、技術選定、全体設計などの最も難易度の高い仕事は経験できません。自社の技術レベルをより高めるためには、元請けとして仕事をする必要もあります。

そこでB社では7年くらい前から受託開発も行っています。元請けとしてプロジェクトをマネジメントすることは難しく、利益が出ないこともままあります。それでも受注案件数は増えています。

またB社では3年前から自社製品の開発を始めました。受託開発である程度の開発ノウハウを積んだこと、最新技術にチャレンジしたい、IT業界では昨今は自社製品の会社が増えており、求職者もそちらに流れるようになっているなどの理由で、自社製品の開発に乗り出しました。

自社製品はサブスクリプション型で毎月キャッシュを稼げるメリットがありますが、キャッシュを得られるまでに時間がかかり、顧客数が増えなければ開発費も回収できません。またマーケティングも重要です。

今のところB社の自社製品は顧客を数社しか獲得できておらず、儲かっていません。今後どうやって顧客を増やすかが課題です。

そしてB社はレガシーシステム(汎用機など主にWebより前の時代からある技術で作られたシステム)の運用・保守も行っています。今では主流でなくなったCOBOLやVBといったプログラミング言語を使うため、エンジニアにとってもキャリアアップになりにくく、また案件数も減ってきています。

B社の事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理した例

B社の事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理してみましょう。

事業分類対応
SES金のなる木稼ぎ頭の事業であり、ニーズも十分にあり、安定して利益を稼げる。よって今後も稼ぎ頭とする。
受託開発花形マネジメントや技術面で難易度が高く、利益が出ないこともある。よって社員教育に力を入れる。
自社製品問題児キャッシュが得られるまで時間がかかるが、顧客さえ増やせれば安定した収益を見込める。よって営業やマーケティングに力を入れる。
レガシーシステムの運用・保守負け犬すぐになくなることはないが、先細っていくことが明らか。よって徐々に撤退していく。
B社の事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理した例

SESは技術者派遣(正確には派遣契約と業務委託契約の2種類がある)ですので、営業さえ上手く行けば、アサイン枠を増やすことで簡単に利益を増やせます。

一方で稼働時間に応じて人件費プラスアルファの料金を顧客にチャージするビジネスであるため、ほぼ確実に利益が出る一方で、売上や利益を大きく伸ばすことが難しいです。

よってB社はSES事業でキャッシュを稼いで他の事業に回すのが良いでしょう。まさしく金のなる木です。

受託開発はマネジメントや技術面を上手くやれれば大きく稼ぐことができます。しかしシステム開発プロジェクトを上手く回すことは難しく、炎上やデスマーチと呼ばれる残業地獄に陥ってしまうプロジェクトも少なくありません。

B社も現状では利益が出ないプロジェクトがいくつかあるようです。よって教育投資などによってプロジェクトを上手く回せるようになって、利益を出せるようにしていく必要があります。花形に分類してよいでしょう。

よってB社の受託開発事業では、マネジメントや技術面での教育投資を社員にしつつ、受注獲得を増やして行くという方向性になるでしょう。またSES事業でチームリーダーや最新技術の経験を積んだ社員を受託開発にアサインしていくことも必要です。

自社製品事業は顧客獲得が重要ですので、営業やマーケティングに力を入れましょう。マーケティング関連のサービスにお金を使って集客するのです。現状では稼げていないので問題児ですが、市場は成長しているのでやる価値があります。

レガシーシステムの運用・保守は先細りですので、契約期間が終了した案件から順に、社員を他の事業に異動させて行きましょう。

AOKIの例

AOKIの事業の概要

AOKIと言えばスーツですが、実は快活クラブのようなマンガ喫茶やコートダジュールのようなカラオケ屋、アニヴェルセルのような結婚式場なども運営しています。オフィスカジュアルが徐々に増えていますので、スーツだけだと業績を伸ばすことが難しいため、多角化しているのです。

AOKIのIRのページにセグメント別の売上高と利益が掲載されています。よってプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの例として扱えます。

https://ir.aoki-hd.co.jp/ja/ir/finance/segment.html

AOKIの事業セグメントは4つに分かれています。スーツなどのファッション、快活クラブなどのエンターテイメント、アニヴェルセル・ブライダル、不動産賃貸です。事業毎に特性も利益率も異なります。題材としては面白いですね。

AOKIの事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理した例

AOKIの事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理した例を掲載します。あくまでも私がやった例ですので、人によって異なる可能性があります。

事業分類対応
ファッション金のなる木主力事業であり利益も大きく稼いでいる。しかしスーツ市場は成長をあまり期待できないので、高付加価値な商品開発が必要。
エンターテイメント花形店舗数は伸び続けている。営業利益率も2024年3月期には約10%。
不動産賃貸問題児売上高、利益額ともに小さいが、営業利益率は15~20%も出している。
アニヴェルセル・ブライダル負け犬営業利益率が低い。ウィズコロナになったことでニーズは上がるかもしれない。
B社の事業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで整理した例

AOKIの本業はスーツであり、ファッション事業が稼ぎ出す金額はとても大きいことがセグメント情報のページから解ります。間違いなく金のなる木でしょう。

エンターテイメント事業はずっと伸び続けている事業です。利益率も上がってきて、金のなる木になってきています。まだ投資して伸びそうなので花形としました。

快活クラブの店舗数の推移が書かれた記事を見つけました。2012年には209店舗だったのが、2021年には504店舗まで増えたそうです。2024年3月期の決算資料でも新規出店が20店舗だそうです。どこまで伸びるんでしょうね。

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01154

不動産賃貸事業はまだ金額としては小さいですが、伸びてはいるので、投資を続ければ大きくなるとして問題児に分類しました。

アニヴェルセル・ブライダル事業は利益率が低く、あまり儲かっていません。今後は儲けられるようにしていく必要がありますね。現時点では4つの事業の中で最も稼いでいないというのと、結婚しない人が増えたという時代的事情を考慮して負け犬に分類しました。

終わりに

今回はプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントについて解説し、架空の企業も含めた3社を例としてやり方を解説しました。

事業がどんな立ち位置にあるのかを把握することで、事業をどう展開していくかを考えるきっかけになります。事業戦略に役立つでしょう。

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントはそんなに難しいものではありません。しかし複数事業を抱えている企業や、新規事業に取り組んでいる企業にとっては役立つフレームワークです。

あなたがもし起業を検討している、あるいは事業企画や事業開発、事業責任者などの立場に就いているのであれば、是非有効に活用してください。

あるいは将来そのようなポジションを目指しているのであれば、今のうちから色々な企業をプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントで分析してみてください。

最後に今回の参考書籍のリンクを再掲します。SWOT分析は勿論、様々なフレームワークについて解説されているので、辞書的に役立つ書籍です。AI時代になって新版になっています。

最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]

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