単能工を多能工化するメリットは会社・個人どちらにとっても大きい
今回は単能工を多能工化するメリットについて解説します。
最初に私の意見を言ってしまうと、会社にとっても個人にとってもメリットが大きいです。よって会社にとってのメリットと個人にとってのメリット、両方を解説します。
本当はどちらがいいかなんて一概には言えません。しかし人手不足が叫ばれる時代にあって、会社・個人のどちらにとっても、自分はこれしかやらないという考えは通用しにくいです。
またVUCAの時代である今、個人がキャリアの幅を広げる上でも、自分はこれ一筋で生きていくというのはリスクが高いです。
今回は経営者や管理職で多能工化を進めることをためらっている方、個人で活躍の場を広げたい方の参考になれば幸いです。
ちなみに多能工化についてはトヨタ生産方式でも語られています。トヨタ生産方式については別途記事を書いていますので、是非読んでみてください。
単能工と多能工
単能工とは
単能工とは特定の業務や特定の工程のみを担当する従業員のことです。
かつて労働者は特定の役割のために雇われることが普通でした。これは特に工業の時代になって明確になりました。
その時代には役割分担が普及しただけでなく、経営を科学で行おうという考えも普及したためです。
しかし今は変化の激しい時代であるとともに、顧客に合わせて様々な仕様の製品・サービスを提供する多品種の生産が普通になっています。
こうなると単能工では仕事を回せないということになります。
余談ですがアメリカでは職能別労働組合が強いそうです。そのためジョブディスクリプションがキッチリしていて、単能工が多く、与えられた役割の範囲しかやらないそうです。
それゆえアメリカの丸亀製麺では12人も従業員がいるそうです。日本の倍くらいの人数です。縦割りが明確だからですね。
一方で多能工にしたければ相応の給料を払えというのがアメリカ人であり、給料関係なく多能工をやってくれるのが日本人ということでもあるようです。
多能工とは
多能工とは複数の業務や複数の工程を担当する従業員のことです。
1つの業務しかできない従業員と、複数の業務ができる従業員、あなたが上司だったらどちらがいいですか?おそらく多くの方は後者だと答えるでしょう。
当然ながら複数の業務を担当してくれる従業員は便利です。しかし育てるのに時間やお金がかかるという難点があります。
とはいえ冒頭にも書いた通り、VUCAの時代で変化が速く、人手不足でもある現代において、多能工は魅力的です。
会社にとっての多能工化するメリット
人繰りが楽になる
単能工を多能工化するメリットとして特に大きいのが、人繰りが楽になることです。
従業員が単能工ばかりですと、誰かが休んだときに、限られた人数で補う必要があります。しかし多能工であれば補いやすいです。
また誰かが辞めたときに、その穴を埋める人を新たに雇わなければいけません。多能工であれば異動という選択肢があります。
具体例で考えてみましょう。
例えばA、B、Cの3つの業務があり、それぞれ5人ずつ従業員がいるとしましょう。
業務Aで一人が風邪を引いて休んだとします。するとその日のノルマは残りの4人で担当することになります。500の仕事を5人で100ずつやっていたのを、4人で125ずつやるイメージです。
これがもし多能工ばかりの会社なら、他のチームの人に少し手伝ってもらうことで、1人110くらいの量にできるかもしれません。みんなで分担できるのです。
属人的な業務を減らせる
どんな職場にも〇〇さんしか解らないという業務がありがちです。そして多くの従業員が持っているノウハウが暗黙知であることも多くの職場で一般的です。
ここでDさんしか解らない業務があって、繁忙期が来たとしましょう。Dさんしか解らないので、誰も手伝うことができません。
それではDさんは毎日遅くまで残業が必要で、もしかしたら休日出勤も必要かもしれません。業務の負担が極端に偏った状態になってしまいます。
またDさんが退職することになったらどうしましょう?引継ぎをやってもらうことは当然ですが、属人的な業務ですので、マンツーマンで教えてもらわなければいけません。引継ぎも大変です。
単能工ですとこのようなことが起こり得ます。しかし多能工化すればこのようなことを防げます。
チームワークを醸成できる
単能工ですと同じ業務をやっている人が困っているときに助けることができますが、違う業務をやっている人を助けることはできません。
たとえ同じ部署内でも、担当する業務が違えば助けられないのです。
これが多能工なら、困っている仲間を助けることができます。
もちろん部門が違う仕事だと業務が違い過ぎて助けられないでしょう。例えば開発部が営業部の仕事を手伝うとか、経理部が人事部の仕事を手伝うのは無理があります。
しかし同じ部門内、たとえば営業部内とか開発部内であれば、多能工化していれば部内の複数の業務に必要な知識やスキルを持っているので、助けてあげることができます。
仲間を助けることができれば、チームワークの醸成にもつながります。
個人にとっての多能工化するメリット
視野が広がる
会社の方針ではなく個人が自分の意思で多能工化を目指すこともあるかもしれません。
個人が自ら多能工化するメリットとしてまず最初に挙げられることは、視野が広がることです。
仕事において通常は部署や職種が同じでも、役割分担されています。また同じ職種でも、扱う顧客や製品・サービスのカテゴリーなどで部署が分かれています。
ここで同じ職種の違う役割の人の仕事を見てみると、自分の仕事が他の人の仕事とどうつながるかが見えてきます。
また同じ職種でも顧客や製品・サービスのカテゴリーが違う仕事を見てみると、知らない発見や気付きが沢山あります。
営業や技術者の方は、様々な製品を知ることが自分の知識を広げることにつながります。
営業であればこういう選択肢もあるという提案ができますし、技術者であれば設計や便利な機能、解決できる課題などを広く知ることができます。
あるいは自分がやったことがない業務や技術について、本を読んでみるのもいいでしょう。これが最も手っ取り早く多能工化を目指せる方法です。
知識が広がることで視野が広がります。自ら自分の担当外の知識を求めていくことで、自分の視野を広めることができます。
ちなみに仕事では視野が広がることで見えるのものが増えます。特にマネジメントや上流工程を目指す人にとっては重要です。
言い換えれば、視野を広げればマネジメントや上流工程をやるのに必要な能力が1つ身に付きます。
活躍の場が広がる
今の役割の範囲外の知識や技術を学ぶことで、活躍の場を広げられる可能性もあります。
例えばモノづくりなら、今まで掘削だけやっていた人が溶接やプレス、研磨などもできるようになれば、人手不足のときに他のチームを助けたりできる可能性があります。
営業であれば、知っている製品が広かったり、より多くの業界の風習を知っていたりすれば、担当できる製品や顧客企業が増えるでしょう。
IT業界では昨今はフルスタックエンジニアと呼ばれる多能工なエンジニアが注目されています。
フルスタックエンジニアとはまさしく多能工で、システム開発における様々な技術を広く身に付けているITエンジニアです。
画面の開発(通称フロントエンド)も、ビジネスロジックやデータベースなどの開発(通称バックエンド)も、サーバーやネットワークの構築もできるため、何でも屋としてプロジェクト内で活躍できます。
https://doda.jp/engineer/guide/it/075.html
私もIT業界でプレイングマネージャーをやりながら、フルスタックエンジニアのように幅広く何でも担当しています。これが顧客にとって何でも聞ける便利さにつながっています。
仲間を助けられる
個人が多能工化して担当できる業務が増えると、仲間が困っているときに助けることができます。
仕事で困ることは沢山あります。難易度の高い仕事を担当することになったり、何かの手違いでトラブルにつながったり、繁忙期がやってきたりと、困る要因は沢山あります。
そんなときに手伝ってくれる仲間がいたら心強いと思いませんか?個人が自ら多能工になることで、職場の仲間にとってそんな心強い人になれる可能性があります。
仲間を助けて幅広く活躍しているとなると、上司の目にも留まるでしょう。評価にもプラスになる可能性があります。そうすれば給料やボーナスにもプラスになる可能性が出てきます。
飽きを防止できる
人間は同じことを繰り返すと飽きます。これは脳の特定の部分だけを使い続けるからです。
筋肉で言えば腕だけ使い続ければ腕だけ疲れます。脳も同じ場所が疲れたら違う場所を使おうとします。これが飽きという現象です。
仕事においても、同じ仕事だけ繰り返していたら飽きます。
かつて19世紀にフォードが工場を立ち上げて効率化を目指したとき、業務を数分でできるもの単位に分割したそうです。中には15秒でできる業務もあったそうです。
しかしその工場では従業員は完全に単能工で、全員が終日1つの業務だけを行っていたそうです。1分でできる仕事を8時間も繰り返すとなると、休憩時間を無視すれば1日480回も同じ作業を繰り返すのです。
その工場では給料が他社の工場の2倍だったそうですが、辞める人が後を絶たなかったそうです。仕事が退屈過ぎたからです。
もちろんこれは19世紀の工業化の時代の話であり、現在のフォードの工場がこんなことはないでしょう。しかしこの話が仕事も慣れれば飽きることを示しています。
多能工化することで、複数の仕事を担当できるようになれば、同じ仕事を繰り返して飽きるということを防げます。
もし勤務先で1つの業務しかさせてもらえないなら、飽きたときは転職するしかありません。しかし多能工化して違う業務もさせてもらえるなら、長く務めることもできます。
新しいことにチャレンジできる
多能工化すると、今までと違う仕事を担当するチャンスも出てくる可能性があります。
多能工化したばかりではそうはいかないでしょうけど、あなたがいつも知識やスキルを広く身に付けて、ご自身ができることを広げていれば、会社や上司も放っておかない可能性があります。
「こいつ色々勉強しているから、こういう仕事もやらせてみようかな」なんて思われたら、チャンスですよ。
会社から見れば、育てずとも勝手に育つ人はごく少数です。自ら多能工化の道を選べば、その少数になれます。
そして今の時代はどこも人手不足ですから、自ら勉強して担当できる業務を増やしている人ほど便利な人はいません。
すると今までやったことがない業務にもチャレンジするチャンスが出てきます。ときには社内でもやったことがある人が少ない、あるいはいない業務を任されるかもしれません。
そうなれば活躍の場は広がりますし、評価にもプラスになるでしょう。
ちなみに新しいことにチャレンジするときのコツについて別途記事を書いています。気になったら読んでみてください。
終わりに
今回は多能工化するメリットを会社と個人の2つの視点から解説しました。
私自身プレイングマネージャーとして多能工として活動してきました。そこで感じたことは、自分の活躍のチャンスが多いことと、顧客から様々な相談をしてもらえることです。
もちろん専門特化した単能工を羨ましいと思うことはありました。専門性の高さでは敵わないからです。
しかし実際の仕事は限られた人員で回すので、1つの業務しかやらない人では困ります。
多能工化することで、確実に活躍のチャンスは広がります。ぜひとも多能工化について検討してみてください。