バランススコアカードの4つの視点を具体例付きで解説
今回はバランススコアカードについて具体例付きで解説します。
バランススコアカードを使うと、自社の戦略を4つの視点でみつつ、指標や従業員が取り組むアクションも見ることが可能になります。
戦略を考えてみたものの、どれくらいの数値を達成すればいいのかや、従業員にはどういうアクションを取ってもらいたいのか、顧客にとっては何があると嬉しいのか、業務プロセスや教育はどうするのかなど、様々な視点で戦略の実現方法を考えることができます。
今回は架空の企業を題材にして、バランススコアカードの使い方を解説します。ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。
最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。
最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]
バランススコアカードについて
バランススコアカードとは
バランススコアカードは財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の4つの視点から戦略を評価するフレームワークです。
企業の評価と言えば財務的な指標が使われることが多いです。決算書によってステークホルダーに経営状況を見せる必要があるからです。
しかしそれだと顧客や業務プロセスなどの他の視点が欠落してしまいます。これらも業績を上げる上で重要な視点のはずです。
そこでバランススコアカードは顧客や業務プロセス、学習と成長という財務指標以外の視点を提供し、4つの視点で考えられるようにしています。
バランススコアカードは4つの視点に加えて、5つの項目を設定していきます。5つの項目は次の通りです。
- 戦略目標(KGI、Key Goal Indicator)
- 重要成功要因(KSF、Key Success Factor)
- 重要評価指標(KPI、Key Performance Indicator)
- ターゲット(KPIの目標値)
- アクションプラン(従業員が取り組むこと)
バランススコアカードのメリット
バランススコアカードを使うことで、財務指標以外の視点を手に入れられます。顧客、業務プロセス、学習と成長はいずれも企業にとって重要な視点です。
またバランススコアカードでは戦略の実現に必要なことを4つの視点から、指標や目標値、アクションなどについて具体的に考えます。
これによって戦略が具体的になると同時に、バランススコアカードに沿って活動することで、経営陣は意思決定に一貫性を持ち、従業員は自社の戦略を理解できます。
バランススコアカードの注意点
バランススコアカードに限らずすべてのフレームワークに言えますが、当てはめたら終わりではなく、実行に移してください。
また指標とターゲットは定量的に計測できるものでなければいけません。定性的な指標だと人によって基準が違ってしまうからです。
ときにはバランススコアカードを見直す必要があるかもしれません。何事も当初の想定通りに進まないことはあります。そんなときは戦略や計画の修正が必要になります。同時にバランススコアカードの指標やターゲット、アクションなども見直すことになるでしょう。
バランススコアカードの4つの視点
バランススコアカードの4つの視点は下記の表のようになります。
財務の視点
財務の視点は売上や利益なので解りやすいでしょう。
上場企業の場合はROEなど投資に関する指標も必要になるかもしれません。上場企業は株主を味方につける必要があるため、株主目線で投資したら得な企業かどうかを知る必要もあります。そこでROEや配当性向なども出てくるでしょう。
顧客の視点
企業が存続するためには利益を出す必要があります。そして利益を出すには収益を得る必要があります。収益は顧客からもたらされます。
よって財務指標を達成するためには、顧客に対する視点が欠かせません。
新規顧客を獲得する、既存顧客を維持する、顧客によって嬉しい(コストパフォーマンスが高いなど)などが考えられます。更にはクレーム対応も重要な視点でしょう。
業務プロセスの視点
新規顧客の獲得や既存顧客の維持、顧客満足度の達成のためには、業務プロセスがしっかりしていなければいけません。よって顧客の視点を実現するためには業務プロセスの視点が必要になります。
業務プロセスの視点では、業務の標準化やマニュアル化、改善活動も含みます。開発スピードや納品リードタイムなど業務のパフォーマンスも重要な指標となります。
冒頭で挙げた参考書籍には載っていませんでしたが、私としては業務プロセスをより良くするという視点なら、設備投資やIT投資による工数の削減も大事だと考えます。よって業務プロセスの視点における指標として、設備投資やIT投資による削減工数も入れていいのではないでしょうか。
学習と成長
良い業務プロセスを実現し、高い業務パフォーマンスを上げるには、従業員の教育が欠かせません。
学習と成長の視点には、社内研修や社内勉強会などの従業員の学びが入りますし、特許数などの会社の技術力に関する指標も入ります。
資格取得者数も業界や職種によっては重要なので、学習と成長の視点に入れていいと私は考えます。
架空の企業を題材にしたバランススコアカードの具体例
バランススコアカードについて解説したところで、架空の企業を例にバランススコアカードを埋めてみましょう。やっぱりフレームワークは使って慣れることが重要ですから。数学の公式と同じです。
ここでは私が架空の企業を考えてバランススコアカードを埋めてみます。
あなたも自社あるいは過去に所属した会社、または架空の企業を作ってやってみてください。
バランススコアカードは業務プロセスや学習と成長という視点が登場するため、内情が解っていないと埋められません。
しかし実在の有名企業を題材にしようとしても、内情が解りません。だから内情が解るという理由で所属したことがある会社で練習するのがよいです。
架空の企業の状況
ここでは架空の企業であるA社を使います。A社は中堅メーカーで従業員数は300人程度、資本金は2億点程度とします。A社の営業利益率は3%とかなり低くなっています。売上高は50億円、営業利益は1.5億円です。
A社はメーカーですので、販売は取扱店契約を結んだ小売店に任せています。元々コストパフォーマンスを売りにしてきましたが、最近はコストが上がってしまい、利益が少なくなってしまいました。
さらには取扱店数もここ数年は伸び悩んでいます。伸ばせれば売上高を伸ばすことも可能なので、悩ましい問題です。
A社はここ10年で生産設備の増強と取扱店の新規開拓を行い、売上高を2倍に伸ばしてきました。そのため顧客サポートの必要性が増しているのですが、強化が追い付いていません。顧客満足度もちょっと怪しいです。
さらにはA社は先輩から後輩へのOJTを中心にやってきたので、社内研修やマニュアルなどもあるにはあるけれど不十分です。いわゆる先輩の技を見て盗めとか、OJTという名で先輩から後輩へ口伝をしている会社です。
色々と問題があるA社ですが、その問題をバランススコアカードで整理してみましょう。
架空の企業を題材にバランススコアカードを埋めた例
私がA社を題材にバランススコアカードを埋めた例を掲載します。
視点 | KGI | CSF | KPI | ターゲット | アクションプラン |
---|---|---|---|---|---|
財務 | ・利益アップ | 販路拡大 コストダウン | 年間の営業利益 | 2.5億円 | 取扱店の新規獲得 高コストな契約や調達の見直し |
顧客 | ・高コストパフォーマンス ・顧客サポートの充実 | ・生産性の向上 ・サポート体制・内容の充実 | ・1人当たり生産性 ・顧客満足度 | ・月当たり100個/人 ・満足度70% | ・改善活動 ・サポート内容のデータベース化と共有 |
業務プロセス | ・作業プロセスの標準化 ・作業効率の向上 | ・マニュアル作成 ・IT投資 | ・マニュアルがある業務数 ・削減した工数 | ・網羅率60% ・月当たり20時間/人 | ・マニュアル理解の講習会 ・改善要望の募集 |
学習と成長 | ・ベテランのノウハウの伝授 | ・ノウハウの形式知化 ・勉強会の実施 | ・形式知化できた勉強テーマの数 ・勉強会の実施数 ・勉強会の参加率 | ・10本作成 ・20回実施 ・参加率50% | ・ベテラン社員の協力 ・勉強会への参加の呼びかけ |
A社は営業利益率が3%しかありません。これを改善して5%を目指すことにしました。よって目標となる営業利益は2.5億円です。売上高も増えれば3億円も夢ではないでしょう。
またA社は設備増強と取扱店の新規開拓に目を向け、顧客サポートが追い付いていませんでした。これについて人員を増やすなど体制の強化が必要です。
それからA社は先輩の技を見て盗めな会社ということもあり、顧客サポートのデータベース化や業務プロセスの標準化も必要です。
そしてベテラン社員に協力してもらい、ノウハウを形式知にして他の社員に教えてもらうことも有効でしょう。先輩の技を見て盗めな会社はいくらでもありますが、それで人を育てることは難しいです。
さらにはIT投資も行います。IT投資によって、顧客サポートのデータベース化と情報共有を進めます。それから営業やバックオフィス業務の効率化による販管費の削減、生産現場での情報の見える化による工数削減も狙います。
この例では適当な値が入っていますが、あなたがご自身の会社でバランススコアカードを使う場合は、現状の値をよく調べてください。そして頑張れば実現できそうな目標値を設定してください。
例えば現在の売上高が5億円なので、6億円を目指してみるなどです。いきなり2倍の10億円などと言っても、M&Aをするか、ヒットする新製品・新サービスでも開発できなければ無理があります。
終わりに
今回はバランススコアカードのやり方を、架空の企業を題材にして解説しました。
バランススコアカードには財務以外の指標があることや、問題解決の方法を検討できること、具体的な目標値を設定できることなど、多くのメリットがあります。是非有効に使ってください。