アンゾフの成長マトリクスを事例付きで解説!事業拡大に有効

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アンゾフの成長マトリクス

企業同士の競争を最初に戦いと捉え、経営戦略という概念を持ち込んだのがイゴール・アンゾフという経営学者です。

アンゾフは市場と製品の2つの視点を既存/新規に分けることで、2×2のマトリクスを作りました。これがアンゾフの成長マトリクスと呼ばれるフレームワークです。

今回はアンゾフの成長マトリクスについて解説し、それぞれの戦略について実在する企業の事例を解説します。

ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。

最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。

最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]

アンゾフの成長マトリクスについて

アンゾフの成長マトリクスとは

アンゾフの成長マトリクスは、縦軸に市場の既存/新規、横軸に製品の既存/新規を取り、企業の成長戦略を4つに分類するフレームワークです。

アンゾフの成長マトリクスを使うと、次に打つ戦略を4つに分類して考えることができます。事業拡大を狙っているときに有効だと私は捉えています。

既存/新規どちらの市場を攻めるか?既存/新規どちらの製品カテゴリーで展開するかを検討できるからです。

アンゾフの成長マトリクスにおける4つの成長戦略
市場浸透戦略、新製品開発戦略、新市場開拓戦略、多角化戦略があります。

1つ気を付けることとして、製品が既存かどうかは、カテゴリーで見た方がいいと私は考えています。

例えばマクドナルドが野菜バーガーを出して健康志向の人を取り込んだら、多角化戦略になるのでしょうか?あるいは蕎麦屋がうどんもメニューに載せて、うどん好きも取り込むようにしたら多角化戦略になるのでしょうか?

一般的に考えると、業態が増える(マクドナルドがハンバーガー以外のお店も始める、蕎麦屋がうどん屋も出店するなど)くらいでないと多角化と呼べないと感じます。

製品が既存か新規かは程度が難しいです。

アンゾフの成長マトリクスにおける4つの分類

アンゾフの成長マトリクスでは、市場と製品それぞれが既存/新規のどちらかかで戦略を4つに分類しています。

市場製品戦略
既存既存市場浸透戦略
既存新規新製品開発戦略
新規既存新市場開拓戦略
新規新規多角化戦略
アンゾフの成長マトリクスにおける戦略の4つの分類

市場浸透戦略

市場浸透戦略は既存市場に既存製品を投入する戦略です。既存市場でのシェアを高めることを目指しています。

既存市場で顧客獲得やブランドロイヤルティの向上を目指し、収益性を向上させることは足場固めでもあります。ファンとなる顧客やリピーターを獲得すれば収益性は高まります。

新製品開発戦略

新製品開発戦略は既存市場に対して新製品を投入することで成長を測る戦略です。補完的な立場の製品や、より高性能・高機能な製品が出れば、既存顧客でも購入する可能性があります。

また既存顧客に新しいニーズが出てきていることを把握できたら、それに対応した新しい製品を提供することも新製品開発戦略です。これは収益性を高めるチャンスです。

新市場開拓戦略

既存製品を新市場へ投入する戦略が新市場開拓戦略です。販売エリアを拡張する、製品を別セグメントの顧客にアピール内容を変えて提供するなどの戦略が考えられます。

マーケティング的にこの製品はこういうセグメントにもニーズがあるんじゃないかというのを掴めたら、やってみる価値がありそうです。

多角化戦略

新市場へ新製品を投入する戦略が多角化戦略です。多角化戦略は難易度が高いため、パートナー企業との提携やアウトソーシング、M&Aなどを活用しましょう。

また多角化戦略はできるだけ自社の技術やノウハウ、設備などを活かせるとよいです。その方がコストや製品開発の期間などを抑えられます。

かつてユニクロが野菜を始めたときのように、関連性が薄い事業だと既存のノウハウや設備を活かせないため、上手く行く可能性も低くなってしまいます。

アンゾフの成長マトリクスにおける多角化戦略の種類

多角化戦略についてもう少し掘り下げていきます。アンゾフの成長マトリクスにおける多角化戦略は4つあります。それぞれ解説します。

水平型多角化

水平型多角化は隣の事業への進出というイメージです。

類似カテゴリーへの進出ならブランディング的にも違和感が少ないです。ユニクロの野菜事業のような違和感はないでしょう。ちなみにユニクロの野菜事業は失敗に終わり撤退しています。ブランディングの話における失敗例として代表的なものです。

ファミレスチェーンが業態を増やす、スポーツシューズメーカーがスポーツウェアも展開するなどは、水平型多角化の例です。

垂直型多角化

垂直型多角化は垂直統合を行う多角化です。

垂直統合とはサプライチェーンの前後方向の事業を統合することです。例えば完成品メーカーが物流事業や部品のサプライヤー事業を統合することなどが該当します。

サプライチェーンについてはこちらの記事を参照してください。

https://www.ntt.com/bizon/glossary/j-s/supply-chain.html

集中型多角化

集中型多角化は技術やノウハウを活かせる業界や製品への進出を行う多角化です。

水平型多角化との違いについても書いておきます。水平型多角化が同業界や類似業界、類似製品など事業や製品が近い分野であるのに対し、集中型多角化は技術やノウハウの活用がベースとなるため違う業界や違う製品も対象になるということです。

例えば映像機器のメーカーが医療機器に進出するなどは、映像や光学の技術を活用した多角化の例です。

コングロマリット型多角化

コングロマリット型多角化は、全くの新製品を新市場に提供するというリスクの高い多角化です。他の3つの多角化のように、類似業界や類似製品でもないですし、垂直統合もしませんし、既存技術の応用もありません。

しかし名だたる大企業の中にはコングロマリット型多角化をしている企業があります。事業拡大とか経済圏の確立という面で、多くの事業と顧客基盤を抱えている大企業にとってはメリットになることがあります。

アンゾフの成長マトリクスの事例

市場浸透戦略の事例

市場浸透戦略の事例としては、マクドナルドなどの大手チェーン店が新メニューを開発して提供することが挙げられます。コンビニが新商品を出すのもいい例ですね。

飲食の大手チェーン店はメニューの見直しをよくやりますし、その度に新メニューが出て、CMが流れることもあります。

コンビニも新商品をよく出しますし、食品メーカーや飲料メーカーとのコラボ商品も出します。こうやってコンビニ各社は自社の店舗に通う顧客を増やそうとしています。

新市場開拓戦略の事例

新市場開拓戦略で解りやすいのは、今まで展開していなかった地域に展開することです。

例えば関東の企業が関西に進出するなどがいい例ですし、昨今ですと海外進出する企業が多いでしょう。

最近よくある市場開拓戦の事例としては、丸亀製麺やニトリ、大戸屋、イオンなど日本の飲食や小売のチェーン店による海外進出です。これらの企業は積極的に海外進出していますので、あなたもニュースで見たことがあるかもしれません。

新製品開発戦略の事例

ここでは新製品を新規カテゴリーや新規事業と捉えて解説します。

先ほど述べたように、マクドナルドのメニューに野菜バーガーが追加されたとか、蕎麦屋のメニューにうどんが追加されたなど、業態や事業が増えない新製品は対象外とします。

製品カテゴリーや事業が増える新製品開発の有名な事例は、任天堂の家庭用ゲーム機です。

任天堂は元々は花札の会社でした。それがトランプやかるたにも進出し、のちに家庭用ゲーム機を販売しました。ファミリーコンピュータ(通称ファミコン)が有名ですが、その前にも家庭用ゲーム機を出しています。

https://gigazine.net/news/20240104-nintendo-color-tv-game

ソニーのプレイステーションも新製品開発の代表的な事例ですが、後ほど多角化戦略の事例で解説します。なぜなら家庭で楽しむゲーム(アナログもデジタルも含む)という観点では、ソニーにとって初ゆえ新市場開拓でもあるからです。

多角化戦略の事例

多角化戦略は4種類ありますので、順に事例を挙げていきます。

水平型多角化の事例

水平多角化の事例を挙げるとするならすかいらーくが解りやすいでしょう。

すかいらーくは近年にラ・オハナというハワイアン料理の店を出しました。ファミレスのような内装ですが、友達同士やカップルで行くのにいい雰囲気の店です。私も何度か通いました。

すかいらーくは飲食業界でコンセプトの違う店をいくつも出しています。ファミレスだけでなく、和食の夢庵、中華のバーミヤン、カフェのchawanやむさしの森珈琲など様々な業態があります。

https://www.skylark.co.jp/brand/index.html

食べ物の好みは千差万別ですし、食事とカフェでは用途が違います。このように飲食業界内で違う業態を出して、様々な客層を取り込む戦略は、水平多角化と言えるでしょう。

垂直型多角化の事例

垂直多角化の事例は中々難しいところですが、近年の例でいうとTSMCのSHARP買収があります。

TSMCは半導体の受託製造をやっている会社です。半導体はコンピュータの材料であり、SHARPの製品は家電やOA機器などコンピュータを組み込むものが多いのです。そのTSMCがSHARPを買収しました。

これにより部品製造から完成品の製造までが、グループでひとつながりになりました。垂直統合が実現したわけですね。そしてTSMCは扱う製品が半導体だけでなく、家電やOA機器にも広がりました。

集中型多角化の事例

集中多角化の事例としてソニーのプレイステーションを挙げます。これは新製品開発の例でもいいでしょう。けれどソニーにとってゲーム事業が初だったため、ゲームユーザーも新たに取り込むことで新規市場への進出にもなったから、多角化戦略と私は捉えます。

ソニーのプレイステーションはソニーとしては初のゲーム機でした。とはいえソニーはエレクトロニクス企業ですので、ゲーム機の開発に必要な電子デバイスや回路、音、映像関連の技術は持っていたでしょう。それらの技術を活かして新製品を開発したので、集中型多角化に分類します。

プレイステーションの開発秘話はかつてDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューに載ったこともあります。

https://dhbr.diamond.jp/articles/-/5934

このインタビューでは、任天堂にゲーム機用の音源を提供してライセンス料を得たとか、スープの冷めない距離で開発を行うなど、新製品開発を進める上でのヒントが紹介されています。気になったら読んでみてください(※有料記事です)。

コングロマリット型多角化の事例

コングロマリット型多角化の事例としては、イオンや楽天、三菱グループや三井グループがいい例です。

楽天は楽天ポイントの経済圏が広まるというユーザーメリットもあり、おそらくそれを活かして事業を多角化しているのでしょう。驚くほど様々な事業を扱っています。

イオンもコングロマリット多角化を行っています。最近の例ですと2022年にキャンドゥを子会社化しています。

イオンのホームページを見ると、スーパーやドラッグストア、コンビニ、銀行、保険、ペット、靴、映画館、100円均一、スポーツ用品などが載っています。

https://www.aeon.info/ir/individual/everyday

三菱や三井などのいわゆる財閥系は言うまでもなく元からコングロマリットです。

他ではトヨタもコングロマリット型多角化を行っています。トヨタの本業は自動車メーカーですが、それゆえに自動車ローンやリースなども手掛けています。更には住宅事業や病院まで持っています。

https://www.toyota-mh.jp

さらにはトヨタにはリクルートと共同出資したOJTソリューションズという会社があります。この会社はトヨタが自動車生産で身に着けたノウハウを応用して人材育成を行うという会社です。

セブン&アイグループもコングロマリット型多角化を行っています。コンビニとスーパーを主体としておきながら、セブン銀行があります。

セブン銀行を始めようとしたときに、メガバンクの頭取が直々に止めに来たという話がDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューに載ったことがあります。事業特性が違いすぎるゆえですが、そのような事業を始めるならコングロマリット型多角化の道を歩み始めていると言えそうですね。

セブン&アイには他にも赤ちゃん本舗やタワーレコード、ロフトなどがあります。いずれも小売ですが、扱っている商品の違いから異なる顧客層を取り込めているでしょう(スーパーと子ども用品は顧客層がかなり重なりそうですが)。

終わりに

アンゾフの成長マトリクスの4つの分類とそれぞれの事例について見てきました。特に多角化戦略は4種類あるので、実質的には7種類の戦略を理解することになりますね。しかし既存か新規かなど、基準がしっかりしているので、切り分けはしやすいでしょう。

事業企画や事業開発の仕事をしているか、独立するつもりがなければ、事業戦略について考える機会は中々ありません。

しかし企業の戦略を理解する上で、アンゾフの成長マトリクスを知っていると役立ちそうです。企業がどこを目指しているかを知ることは、就職・転職や投資でも役立つでしょう。

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