経営分析と株式指標で投資先企業を分析|NEW ART HOLDINGSの計算例
当サイトでは知識の解説に加えて、事例や練習問題も用意しています。今回はより実践的な練習問題として、実在の上場企業について経営分析と株式指標の計算を行います。
私がExcelで計算した例を記載しますので、会計やファイナンスの勉強をしている方や株式投資の勉強をしている方も是非Excelで計算してみてください。
経営分析と株式指標の計算について
経営分析の計算ができると、対象企業の安全性、効率性、生産性を測ることができます。これによって対象企業が取引相手としてどうか評価できますし、株を買うかどうかの判断にも使えます。もしかしたら就職・転職先として長く安定した給料をもらえる会社かどうかを測ることもできるかもしれません。
株式指標の計算ができると、投資先としてどの程度の利回りを期待できるかを評価できます。株をやっている方やファイナンスの勉強をしている方には役立つでしょう。
経営分析と株式指標の計算については過去に記事を書いていますので、計算式や指標の意味はこれらの記事を参照してください。
今回のお題企業
今回はジュエリーやアートを扱うNEW ART HOLDINGSの2022年3月時点の決算書を使って計算します。
なぜこの会社を選んだかというと、最近私はアートに興味があるため、この会社の株を買ったからです。
アートというものは何世紀も前から人類が生み出してきたものです。アートの役割は問題提議や新しい価値観の定義、新しい理解の提案や新しい表現の追求などがあります。人類が雨の絵を描けるようになったのも、アートのおかげだったりします。
そして創造性が求められるようになった現在、アートを学ぶ意義が増してきていると考えています。私は創作が好きですが、アートとクリエイティブの勉強という意味も兼ねています。
そういう理由でアートを扱っている会社の株を買ったのです。そしてこの会社を知るために、有価証券報告書を読んで経営分析を行いました。
経営分析
経営分析指標の計算
上場企業の決算書を探す場合、有価証券報告書を探してもいいですし、ホームページのIR情報を見てもいいです。後者の方が勘定科目の分類が大まかなので読みやすいです。情報量で言うと有価証券報告書が圧倒的です。
NEW ART HOLDINGSはホームページで決算書データを公開しています。
貸借対照表 | 投資家情報 | ニューアートホールディングス
有価証券報告書から決算情報を探す場合、単体と連結の2種類があるため気を付けてください。
基本的には株を買うにしても、取引するにしても、入社するにしても、ホールディングスの場合は連結で見ておいた方がいいと私は考えています。なぜならホールディングスはグループ会社の経営が事業であるため、グループ会社の業績が悪化したらグループ経営自体が立ち行かなくなるからです。
それでは有価証券報告書を基にExcelで計算した結果を貼ります。
Excelにも書いてありますが、経営分析の指標は下記の通りになりました。
指標 | 値 |
---|---|
売上高総利益率 | 64.89% |
売上高営業利益率 | 14.42% |
売上高経常利益率 | 15.71% |
売上債権回転率 | 10.59回 |
棚卸資産回転率 | 2.67回 |
有形固定資産回転率 | 3.43回 |
経営資本回転率 | 1.00回 |
総資本回転率 | 0.90回 |
流動比率 | 153.99% |
当座比率 | 60.25% |
自己資本比率 | 46.15% |
負債比率 | 116.69% |
固定比率 | 81.83% |
固定長期適合率 | 37.77% |
それでは安全性、効率性、収益性の3つの観点について順に見ていきましょう。
安全性
流動比率は普通ですが、当座比率が低いです。短期借入金と商品及び製品が多いのが原因です。
短期借入金については有価証券報告書の60ページに記載があります。運転資金を当座貸越で確保しているとだけ記載があり、それ以上はありません。
しかし商品及び製品の半分程度の金額であり、高額な商品を扱うと考えればこんなものかもしれません。小売店である以上、まず仕入れにお金がかかります。運転資金を柔軟に確保するために、当座貸越で資金を確保しておくことが有効という考えのようですね。
効率性
ジュエリーは季節や流行によって需要が変動しやすいため、在庫管理が重要です。6月のような結婚式が多いシーズンでは需要が高くなるでしょうし、ファッションという観点では流行の影響を受けます。
需要変動があると、需要予測をした仕入れが必要になるため、在庫管理の難易度が上がります。
正確な在庫数の把握や、人気商品の再注文なども適切な在庫管理に必要です。在庫過剰や在庫不足を避けることが重要になります。
NEW ART HOLDINGSの決算書を見ると、商品及び製品の金額が大きい、つまり在庫が多いことが解ります。そして棚卸資産回転率が低いです。
e-Statから小売業の棚卸資産回転率を探してみたところ、15.5~16回転のようです。ただし小売業と一口に言っても色々あります。ジュエリーの大手チェーンであるツツミが約1.3回、4℃ホールディングスは約5.2回です。かなりばらつきがありますが、ジュエリーは高価であるがゆえに回転率が低いのでしょう。
ここで回転率ではなく回転期間を考えてみます。回転率を逆数にすると回転期間になります。
企業名 | 棚卸資産回転率 | 棚卸資産回転期間 |
---|---|---|
NEW ART HOLDINGS | 2.67回 | 0.37年(約4ヶ月半) |
ツツミ | 1.34回 | 0.75年(約9か月) |
4℃ホールディングス | 5.17回 | 0.19年(約2ヶ月強) |
回転期間で考えると多少は解りやすくなりますね。
こう考えると、高価な商品といえど半年以内には売り切ってほしいですね。ファッションが流行の変化が速くて3ヶ月以内に売り切るのが良いと考えると、ジュエリーも高価で購入頻度が高くないことを考えて3~6ヶ月で売ってほしいと感じます。
収益性
単価が高い商品を扱っているためか、粗利率はとても高いです。
ちなみに粗利率も業界別平均を検索すると、何かしらの記事が引っかかります。
粗利・粗利率とはどんなもの?営業利益との違いや活用法を解説|経理あんしんガイド|弥生株式会社【公式】
小売業の粗利率は約3割です。それを考えると約64.89%の粗利率はジュエリーやアートなどの高単価な商品を扱っているからこそでしょう。
また営業利益率や経常利益率も高いです。これらは10%以上あればいい方です。NEW ART HOLDINGSの場合は、売上高営業利益率が約14.42%、売上高経常利益率が15.71%という数値は高いです。
過去5年のP/Lを見ても営業利益、経常利益、当期純利益が黒字です。NEW ART HOLDINGSは収益力が高いと言えますね。
損益計算書 | 投資家情報 | ニューアートホールディングス
その他に気になったこと
ジュエリーやアートは持ち運びやすい大きさ・重量でありながらとても高価です。となると盗難や詐欺への対策が重要になります。
有価証券報告書を読んだ限りでは、監視カメラや警備会社との連携、警備システムによりセキュリティの強化に取り組むことでリスクを低減するとのことです。具体的な設備やシステムを開示すると、悪意ある者にとって情報となるからかもしれません。また防犯対策に投資した金額も不明です。
株式指標の計算
続いて株式指標を計算してみましょう。株を買うかどうかの判断の参考になります。ぶっちゃけて言ってしまうと、オフィシャルホームページや株式情報サイトに載っていることもありますが、練習のために計算してみましょう。
ちなみにホームページでは株価、発行済株式数、時価総額がすぐに見つからないことがあります。その場合はかぶたんなどの投資関連サイトで調べましょう。
Excelでの計算例を添付します。Excelに式を仕込んでおけば、色々な会社の指標を簡単に計算できます。決算書は2022年3月時点、株価は2023/3/30終値を使用しています。2022/3/31時点の株価が不明(調べれば出てくると思いますが)なのと、現時点で投資対象としてどうかという意味で現時点での株価を使いました。
PERは15倍が標準、PBRは1倍が標準ですので、一見割高に見えます。ここで業界別平均を見てみましょう。
業種別平均PER・PBRを活用しよう | 記事 | コラム | トレーダーズ・ウェブ
業界別平均ですと、PERは22倍、PBRは1.7倍のようです。ということはPERは標準的、PBRは高いと考えて良さそうです。
ROEが15%もあるのは高い方です。伊藤レポートというものがあって、日本企業はROEが低いので、改善して8%以上を目指しなさいというくらいですので、15%あれば収益力が高くて効率の良い投資ができると考えられます。
「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト
終わりに
今回は私が株を買ってみたいと思って調べた会社の経営分析と株式指標の計算を例題としてやってみました。
ここでのポイントは、経営分析については計算結果を業界平均と比べてみたことです。そうやって業界内でも良い方か悪い方かが解ります。
また計算をしているうちに気になる点が出てくることもあります。その場合は有価証券報告書を見てみると良いです。有価証券報告書には色々な情報が載っています。
企業を会計やファイナンスの観点から評価できるようになると、取引先としての信用度や投資先としての評価ができるようになります。就職・転職先として給料やボーナスを安定して得られそうか、リストラや倒産に遭いにくい会社かどうかを見ることもできるでしょう。