5フォース分析を3つの業界で行った例を5つの競争要因とともに解説

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5フォース分析

今回は5フォース分析のやり方を、3つの業界を例にして解説します。

5フォース分析はマイケル・ポーターという経営戦略の世界ではとても有名なハーバード・ビジネス・スクールの教授が提唱しました。

5フォース分析を使うと、特定の業界について自社と他の関係者との力関係を知ることができます。自社と顧客と競合には目が向きやすいですが、仕入先や新規参入者、代替品など見落としがちな対象にも目が向くのです。

今回は飲食業界、オリジナルブランド、IT業界の3つの業界を例に5フォース分析を行います。ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。

最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。

最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]

5フォース分析とは

5フォース分析の概要

5フォース分析は新規参入者の脅威、代替品の脅威、仕入先(売り手)の交渉力、顧客(買い手)の交渉力、同業他社との競合の5つの競争要因から、それぞれの影響力を分析するフレームワークです。

顧客や競合、仕入先は意識しやすい存在ですが、新規参入や代替品も視野に入っているところがポイントです。新規参入や代替品は見落としやすいだけでなく、大きな影響力も持つからです。

5フォース分析をやるメリット

5フォース分析をやることで、業界構造を理解できます。それにより自社が所属している業界の現状を理解し、自社の経営戦略に役立てることができます。

また新事業で新たな業界に参入する場合にも、参入先の業界構造を理解することで、参入するかどうかを総合的に判断できます。

さらには複数の業界を5フォース分析して比較してみると、それぞれの業界の特徴が見えてきます。すると自社が参入するのはどの業界がよいか判断する材料になります。

5フォース分析の注意点

5フォース分析に限りませんが、フレームワークを使うときは当てはめて満足して終わってはいけません。フレームワークに当てはめて考えてみて、次のアクションにつなげていきましょう。

5フォース分析で言えば、新規参入や代替品のリスクにどう揃えるか、仕入先や顧客、競合にどう対応するかという施策を作って実行していきましょう。

5フォース分析の5つの競争要因

次に5つの競争要因についてもう少し具体的に解説します。

5フォース分析の5つの競争要因
5フォース分析では新規参入、代替品、仕入先の交渉力、買い手の交渉力、同業他社との競合の5つの競争要因から業界を分析します。

新規参入の脅威

新規参入の脅威は常にあるものです。

例えば参入障壁が低い業界を考えてみましょう。飲食店などは個人事業主でも開業できるため、参入障壁が低い業界です。実際に飲食店は山ほどあり、早ければ1~3年で閉店してしまうお店もあります。

他にもフリーランスが成り立つ仕事も参入障壁が低いです。例えばWebデザイナー、Webライター、ITエンジニアなどです。これらはフリーランスとして業務委託で仕事を請けられる仕事です。

それゆえこれらの仕事に就くためのスクールも存在します。

あるいは地方の小売業にとってはイオンなどの大手ショッピングモールも新規参入の脅威です。安さと品揃えで一気に駆逐されてしまう可能性があります。地方の商店街の衰退は言うまでもないですし。

他には書店にとってのECも新規参入の脅威です。書店の数が減っているというニュースを近年見かけます。Amazonや楽天ブックスなどのECサイトが書店から顧客を奪っているためです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/b0626e7d01beb14696da23176a47b2299bfa0cb6

新規参入の脅威は自社が参入しやすいかだけでなく、参入後に競合が沢山入ってくるかも表しているのです。

代替品の脅威

代替品の脅威も常に存在します。

差別化が難しいコモディティ商品なら、消費者の多くは単純に安い方を選んでしまいます。

差別化ができていなければ、顧客から見れば自社の商品でなくても、他社の商品でも構わないということになります。

また技術の進歩によって既存の製品・サービスに変わる新しい製品・サービスが登場することもあります。

近年の例でいえば、スマホのカメラが高性能化したためにデジカメの販売数が激減しました。スマホはデジカメにとって代替品だったのです。

ベンチャーによるイノベーションも代替品の脅威です。今までの製品の問題点を解消した製品、あるいは今までになかった製品を、ベンチャーのような後発企業は新しい技術や発想などで作ってきます。すると既存製品のシェアがいくらか奪われてしまいます。

その他にも意外なところでは原付が電動アシスト自転車にとって代わられ、販売数が落ちています。電動アシスト自転車の利用者数は凄く増えていることが、街を歩くだけでも解ります。

https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20230623hitokoto.html

仕入先(売り手)の交渉力

材料や部品の仕入れ先、業務の外注先などの交渉力が高い場合、高い価格で仕入れる必要性が発生し、自社の利益が下がります。

例えば希少な素材を扱っている業者からその素材を仕入れなければいけない場合が該当します。

あるいは自社が持っていないけど自社の多くの業務で必要な技術・ノウハウを持っている人材を外注先が抱えている場合、外注コストが高くなります。相手からすれば高い価格で売っても、買ってもらえるからです。自社から見たら高くても買わざるを得ませんので。

顧客(買い手)の交渉力

顧客にとって自社以外にも同様の製品・サービスを扱っている企業やお店があるのなら、自社を選ばなくてもよいということになります。

自社の製品・サービスと類似の製品・サービスを同業他社も扱っているのなら、価格を下げないと、顧客はより安い方の製品・サービスを買ってしまうでしょう。

また顧客からすれば、このような状況では価格交渉をする余力も出てきます。家電量販店で他店の広告を見せて値引き交渉をしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

買い手の交渉力を下げるためには、自社の製品・サービスに他社と差別化された要素やオリジナリティが必要になります。

同業他社との競合

競合企業の分析や業界内の企業の動向の把握などは多くの方が行っているでしょう。

当然ながら競合が多くて競争が激しい業界は価格競争が起こりがちです。家電量販店などはいい例です。家電量販店業界では安売り合戦が行われており、M&Aも行われ、物流投資が盛んです。

飲食店も競争が激しい業界です。参入障壁が低いため、オリジナリティを出してファンを獲得しないと、生き残ることが難しいです。

逆にエネルギーなどの社会インフラ産業や、医療や製薬などの規制に守られた業界では、競争は緩やかになる傾向があります。これらの業界の企業は利益も安定しており、株式投資の対象としても人気があります。

業界別に5フォース分析を行った例

それでは業界を分析した例に移りましょう。

ここでは日常的な業界として飲食業界、昨今増えている業界というかビジネスとしてオリジナルブランド、昨今人気や需要が増しているIT業界の3つを取り上げます。

飲食業界

私が飲食業界を5フォース分析した例を掲載します。もちろん人それぞれ気付きは違うでしょう。あくまでも私の場合の例であることはご承知ください。

競争要因圧力の強さ分析結果
新規参入の脅威開業資金は300~1,000万円くらいと全業種の中では低い方であり、個人での開業も多い。個人、法人ともに常に参入者がいる。
代替品の脅威同カテゴリーの店は顧客の生活圏内(オフィス街なら徒歩圏内)にいくつもある。
中食やデリバリーも増えており、これらも飲食店のシェアを奪う。
仕入先の交渉力食材業者も飲食店も沢山いるので、どっちもどっち。ただし大企業なら大量発注により仕入先の交渉力を弱くできる。
買い手の交渉力競合はいくらでもおり、同じカテゴリーで同程度の価格の店が生活圏内(オフィス街なら徒歩圏内)にあるのが普通。
よって顧客は店を選べる(それこそ気分で選んでもいい)ので買い手の交渉力は強い。
同業他社との競合競争が激しく、1~3年で閉店することも珍しくない。差別化が難しく価格競争になりやすい。
飲食業界を5フォース分析した例。最強フレームワークp45を参考に作成。

飲食業は参入障壁が比較的低いです。店舗が小さくて済みますので、開業資金が比較的少ない業種です。オフィスワークが増えた今では中くらいと言っていいかもしれません。少なくとも製造業や物流業、量販店よりは必要な資金が桁1つ以上は安いでしょう。

もちろんオフィスワークの業務委託のように、飲食業よりももっと開業資金が少なくて済む業態もあります。それこそこの業態はフリーランスなら自宅を事務所にして始められますので。

飲食業は同カテゴリーのお店が生活圏内、あるいはオフィス街なら徒歩圏内に沢山あります。よって競争が激しく、閉店も多くなります。

よってオリジナリティあるメニューの開発によってファンを獲得することが重要になります。

オリジナルブランドのプロデュース

オリジナルブランドのプロデュースを選んだ理由は、今の時代はやろうと思えばオリジナルブランドを出すことが可能だからです。勿論売れるかどうかは別問題ですが。

実際に芸能人がプロデュースするオリジナルブランドだって存在します。人にもよると思いますが、多くの人はモノづくりの技術や設備を持っているわけではなく、提携先の工場を探しているでしょう。

https://mainichi.jp/articles/20221222/osg/00m/020/009000d

https://diamond.jp/articles/-/334025

また昨今は小売企業のプライベートブランドも日常的に見かけます。当然ながら小売企業に製品を作る技術や設備はありません。だから提携先の工場があります。

このようにオリジナルブランドを作るハードルは下がっているので、5フォース分析の題材に選びました。

それでは私がオリジナルブランドのプロデュースを5フォース分析した例を掲載します。

競争要因圧力の強さ分析結果
新規参入の脅威参入しやすい。理由は技術面をパートナーに任せられるため。
実際に芸能人がオリジナルブランドを立ち上げたり、小売業がプライベートブランドを作ったりしている。
販売についてもBASEなどのECプラットフォームがある。
代替品の脅威同業者はいくらでもいる。既存ブランドが類似商品を出してきたら人気の差で顧客を奪われる可能性もある。
仕入先の交渉力ブランドが大きくならないと仕入先に対して交渉力を高められない。
仕入先から見れば、複数いる販売先の1社でしかない。
買い手の交渉力類似商品は沢山あるので、製品レビューで高評価を取ることやファンづくりが大事。
同業他社との競合競合は沢山いるので、差別化やオリジナリティが大事。
ブランディングも大事。
オリジナルブランドのプロデュースを5フォース分析した例。最強フレームワークp45を参考に作成。

オリジナルブランドを立ち上げる場合、パートナー探しに苦労するかもしれません。作りたい商品次第ですが、作りたい商品に対して、アイディアを形にできる技術を持ったパートナー企業を見つける必要があります。

また今まで全くなかった商品というものは中々ありません。既存の商品カテゴリーでオリジナリティを発揮して、差別化する必要があります。ここがとても厳しいところです。

またブランディングやデザインにも力を入れる必要があります。魅力的なブランドを作り、ファンを獲得することが、業績を上げるために必要です。

ちなみにブランディングについては記事を書いていますので、興味がある場合は参考にしてみてください。

https://www.midknowledge-workshop.com/archives/category/lecture/branding/

IT業界

最後の業界例はIT業界です。なんと言っても最近はITエンジニアの需要が上がっており、IT業界の認知度やイメージが上がっているからです。

私がIT業界を5フォース分析した例を掲載します。

競争要因圧力の強さ分析結果
新規参入の脅威IT業界の仕事の多くはSESと呼ばれる技術者派遣(派遣契約と業務委託契約がある)のため、フリーランスやマンションの一室でも始められる。
自社製品を作るとしても、ハードウェアと違いソフトウェアは生産設備が不要で、PCさえあれば作れる。
代替品の脅威技術者派遣中心であり、よほど希少なスキルがなければ代替しやすい。
また新しい技術が登場するスピードも速いため、既存技術がすぐに代替される可能性もある。
仕入先の交渉力IT人材は不足しているので、外注先企業はより単価が高い会社や、案件数、アサイン枠(案件にアサインできる人数)が多い会社が見つかればスイッチングしてしまう。
買い手の交渉力IT投資は増えているので案件数はあるが、顧客にも予算があるため単価アップは難しい。
一般的にIT業界では発注元の発言力や立場が強い。
同業他社との競合SESは客先常駐なのでオフィスが不要。よってマンションの一室でも起業できるため、競合はいくらでもいる。
技術や業界・業務特化でよほど差別化できていないとレッドオーシャン。
IT業界を5フォース分析した例。最強フレームワークp45を参考に作成。

IT業界は需要が伸びていて成長中の業界です。それゆえ求人も増え、待遇や残業時間の改善も進んでいます。ソフトウェアのエンジニアもようやくIT土方や3Kの代名詞と呼ばれる仕事から、ハードウェアのエンジニアのような手に職な仕事になってきました。

しかし技術者派遣が仕事の中心であり、参入障壁がとても低く、競合がとても多いです。

また自社製品を作るにしても今ではPCさえあれば設備が不要です。クラウドが普及する前はサーバーと冷却設備に大きなコストがかかりましたが、クラウドが普及した今ではサーバーは借りるものとなりました。

もしIT業界が成熟産業になってしまったら、5フォース分析の結果からはうまみがとても少ないですね。成長中で労働環境も改善されているからこそチャンスがあります。

ちなみにITエンジニアを選ぶメリットについてnoteに記事を書いています。あなたがもしIT業界に興味があるなら、あるいは現在IT業界で働いている方であれば、読んでみてください。

https://note.com/biginuneko/n/n0bd53e82c4ed

終わりに

今回は5フォース分析のやり方について、業界例を挙げながら解説しました。

こうしてみると分析対象の業界について調べないと5つの競争要因を埋められません。よって分析対象の業界に対する理解が深まりますね。

最後にもう一度今回の参考書籍を挙げておきます。バランススコアカード他、色々なフレームワークが載っているので、役立つでしょう。

最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]

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