コトラーの競争地位戦略をリーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーの例で解説
今回はコトラーの競争地位戦略を解説します。
フィリップ・コトラーはマーケティングの大家です。
コトラーの競争地位戦略は企業を4つの地位に分類するフレームワークです。それぞれの地位毎に適した競争戦略があるというわけです。
この記事ではコトラーの競争地位4つについて解説した後に、自動車、カフェ、眼鏡の3つの業界にコトラーの競争地位戦略を当てはめた例を解説します。
ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。
最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。
最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]
コトラーの競争地位戦略とは
冒頭でも少し書きましたが、コトラーの競争地位戦略は自社を市場内での地位に分類し、地位に応じた戦略を考えるためのフレームワークです。地位とは言っても、順位の意味合いが強いです。
マーケティング戦略やポジショニング戦略を検討する上で、自社が業界内でどのあたりの地位にいるかは重要です。
業界シェアNo.1と業界平均では当然ながら置かれている状況が異なりますので、取るべき戦略も違います。中小企業や個人事業主ならニッチ路線で競争を避けるという戦略も当然ありです。
業界内で中間にいる中堅・中小企業が製品・サービスのラインナップを豊富にすることは、資金や人員の面で無理があります。
大企業であればラインナップを広げることは可能です。しかし業界内での順位が中堅なら、得意分野に特化してシェア上位を目指した方が効率がいいでしょう。
業界内での自社の地位を知ることで、このように取るべき戦略が見えてきます。
ちなみにコトラーの競争地位戦略の製品、価格、流通、プロモーションはマーケティングの4Pでもあります。
4つの競争地位
リーダー
リーダーは業界トップシェアの企業を指します。このような立場の企業は資金や人員も豊富で、技術もありますので、フルライン戦略を取ります。つまりマスをターゲットとして幅広い製品・サービスを取りそろえますし、万人受けするような製品・サービスを開発するのです。
リーダーのシェアは40%以上と言われ、市場規模が拡大したときの恩恵も大きくなります。
業界を分析する際にリーダーを見つけるのは簡単です。圧倒的に売上高や店舗数が多い企業がリーダーだからです。自動車でいうトヨタ、アパレルでいうユニクロ、カフェでいうスターバックスがいい例です。
チャレンジャー
チャレンジャーはリーダーの次にシェアが大きい企業です。こういう立場ですので、リーダーに挑んでシェアNo.1を目指す企業でもあります。
チャレンジャーがリーダーと同じことをしていては、資金や人員で負けてしまいます。よってチャレンジャーはリーダーと差別化した戦略が必要になります。
チャレンジャーが取る戦略は、リーダーがまだ強化していない地域やカテゴリーに注力することや、業界地位の低い企業をM&Aするなどになります。
チャレンジャーがM&Aをしてシェアを拡大した例にファミリーマートがあります。コンビニ業界のリーダーは言わずもがなセブンイレブンです。日販が他社より10万円は多いです。ファミリーマートはチャレンジャーの地位です。
そんなファミリーマートが自身より小さなサークルKサンクスを買収して吸収しました。そしてサークルKやサンクスの店舗はファミリーマートに変わりました。近くにファミリーマートがいくつもあるという妙な光景が出来上がりました。
このようにより地位の低い企業をM&Aしてリーダーに追いつくという戦略もあります。
フォロワー
フォロワーはチャレンジャー同様に、リーダーと比べると資金や人員で劣ります。よって製品・サービスのラインナップも狭くなります。
よってフォロワーにとって事業の選択と集中は不可欠です。自社の強みを活かせる自社に集中し、リーダー企業が狙わない市場や地域を狙います。
業界内における中堅企業がフォロワーに該当します。そしてフォロワーはチャレンジャーとは違い、積極的にリーダーに挑むことはありません。棲み分けして堅実に生きる方を選びます。
ちなみにシェアがトップでない企業がチャレンジャーとフォロワーのどちらなのか悩んだ場合、シェアや売上高、店舗数などで分類するとよいでしょう。チャレンジャーの方がフォロワーよりこれらの数字が大きくなります。
ニッチャー
ニッチャーはニッチ路線を進む企業です。主に中小企業や個人事業主が該当します。
ニッチャーはリーダーやチャレンジャーが参入してない隙間市場を狙い、そこに限られたリソースを集中して投入します。
リーダーやチャレンジャーは大企業ですので、大企業では狙っても採算が取れず、小さくてマニアックな市場を狙うのです。それゆえニッチャーはニッチビジネスを行う会社となります。
コトラーの競争地位戦略を使うメリット
コトラーの競争地位戦略を使い、4つの地位のどこかに自社を当てはめることで、自社の地位に応じた戦略を絞り込めます。
自社がリーダーならフルライン戦略で製品・サービスを充実させ、CMを打つなどして多くの人に製品・サービスをアピールします。
自社がチャレンジャーならリーダーと差別化してシェア拡大を図ります。先ほどファミリーマートの例を紹介しましたが、ときにはM&Aも有効でしょう。
自社がフォロワーなら選択と集中をしつつ、リーダーやチャレンジャーの戦略や業界の流行などをキャッチアップしていきます。
自社がニッチャーならニッチ路線で専門特化です。手広くやってはあれもこれも中途半端になります。
前提条件として、自社の業界内での立ち位置や、業界シェアを把握していることが必要です。しかし大抵の企業は把握しているでしょう。これらを把握していないなら、まずは把握しましょう。
コトラーの競争地位戦略の例
自動車業界におけるコトラーの競争地位戦略の例
自動車業界の競争地位を分類した例
まずはコトラーの競争地位戦略の例で定番の自動車業界を見てみましょう。
地位 | 代表的な企業 | 戦略 |
---|---|---|
リーダー | トヨタ | シェアNo.1の巨大企業。大衆車も高級車も小型車もワゴン車も手掛けている。 |
チャレンジャー | 日産 | ハイブリッド車に力を入れるトヨタに対し、EVに力をいれている。 プロパイロットと呼ばれる自動運転技術にも力を入れている。 |
フォロワー | マツダ | デザインに力を入れている。 |
ニッチャー | スズキ、ダイハツ | スズキは軽や小型車を中心に展開し、ダイハツは軽に特化している。 |
リーダーはトヨタで半分に迫る圧倒的シェア
自動車業界において、シェアトップはトヨタです。なんと約45%と半分近いです。チャレンジャーである日産やホンダは約10%しかありません。
https://gentosha-go.com/articles/-/52061
確かに街中でトヨタ車をよく見かけますが、そこまでトヨタのシェアが大きいとは私も予想外でした。
チャレンジャーの日産は差別化で対抗
チャレンジャーの立場にいるのはシェアで2番手の日産やホンダです。ここでは日産を挙げます。
トヨタがハイブリッド車に力を入れ、ハイブリッドの車種も増えているのに対し、日産は電気自動車(EV)に力を入れています。また日産はプロパイロットと呼ばれる自動運転技術も力を入れて開発しています。
そして日産は電気自動車、自動運転技術ともにCMで積極的にアピールしています。
https://www.nissan.co.jp/BRAND
フォロワーのマツダはデザインに注力
フォロワーのマツダはデザインにとても力を入れています。日本ブランドは欧米ブランドと比べてデザインが弱いと、あらゆる製品カテゴリーでよく言われます。
しかしマツダは2010年頃にデザインファーストを掲げ、「魂動デザイン」というコンセプトを作りました。この頃からマツダのデザインは大きく変わりました。
https://www.mazda.co.jp/beadriver/design
ニッチャーのスズキは小型車と系に、ダイハツは軽に特化
自動車業界におけるニッチャーはスズキやダイハツです。
スズキは小型車や軽に力を入れ、ダイハツは軽に特化しています。どちらも会社の規模ではトヨタ、日産、ホンダなどの大手には敵いません。よって選択と集中を行い、特化した戦略を取るのが賢明ということになります。
カフェ業界におけるコトラーの競争地位戦略の例
カフェ業界の競争地位を分類した例
次は私がよく行くという理由でですが、カフェ業界におけるコトラーの競争地位を分類してみましょう。
地位 | 代表的な企業 | 戦略 |
---|---|---|
リーダー | スターバックス | 業界最大手。 サードプレイスというコンセプトや従業員個々人の判断による接客サービスが売り。 |
チャレンジャー | タリーズ、ドトール | スターバックスと比べると店舗数は大きく下がるが、類似価格帯。 タリーズはコーヒーの味、ドトールはミラノサンドなど特徴がある。 |
フォロワー | ベローチェ、エクセルシオール | 店舗数はあまり多くない。 ベローチェはコストパフォーマンスの高さ、エクセルシオールはドトールの高級版。 |
ニッチャー | 星乃珈琲 | こだわりのコーヒーやパンケーキを扱っている。 |
カフェ業界のシェアについては、こちらの記事に売上高や店舗数がありますので参考にしてみてください。
カフェ業界のリーダーはスターバックス
カフェ業界でシェアNo.1を取っているのはスターバックスです。これは多くの方が予想が付いたのではないでしょうか?
スターバックスはサードプレイスをコンセプトとし、のんびり長時間居座れるカフェであることにこだわりを持っています。
コーヒーのおかわりは半額ですし、スイーツも充実しています。季節限定のドーナツは美味しいですし(私は何度か食べています)、ケーキも美味しそうなものが揃っています。
またスターバックスは店員向けのマニュアルがありません。各自が顧客が喜ぶと思うことを自分で考えて実践しろというスタイルです。
もちろん教育研修はありますが、従業員がマニュアルではなく自分で接客サービスを考え実践しているからこその接客品質があります。
チャレンジャーはタリーズやドトール
タリーズやドトールはスターバックスと同価格帯(ドトールはコーヒーが若干安めですが)で、店舗の広さや立地もスターバックスと似ています。競合関係にあると言ってよいでしょう。
タリーズは豆選びや国内焙煎、あえて手間のかかる手動ドリップなどによって、コーヒーの味にこだわっています。私もよく通います。
タリーズについてはSWOT分析の記事で細かく分析していますので、気になったら読んでみてください。
ドトールはミラノサンドが特徴です。これは他のカフェにはないメニューです。またコーヒーがスターバックスやタリーズより50円程度安いです。
タリーズやドトールはスターバックスと競合していますが、スターバックスにはない差別化要素を持っています。
フォロワーはベローチェやエクセルシオール
ベローチェの特徴はコストパフォーマンスの高さです。ベローチェの店舗は駅や商業施設からちょっと遠いところによくあります。これによって家賃が安くなります。
エクセルシオールは逆にスターバックスやタリーズよりも50円程度高いです。比較的安めのドトールとは逆に、味にこだわったカフェになっています。
ニッチャーは星乃珈琲
私も星乃珈琲へコーヒーやパンケーキを目当てに通ったことがあります。
星乃珈琲のコーヒーには彦星ブレンドや織姫ブレンドなど個性的な名前がついています。そして専門家が監修することで味にこだわっています。
https://www.hoshinocoffee.com/menu.html
また店舗数こそ少ないですが、店舗も独特の雰囲気を出しています。スターバックスやタリーズのようなカジュアルな雰囲気ではなく、昔ながらの長居できる喫茶店のような雰囲気なのです。
このように星乃珈琲は独自路線を確立できているため、ニッチャーと言えるでしょう。
眼鏡業界におけるコトラーの競争地位戦略の例
眼鏡業界の競争地位を分類した例
最後に眼鏡業界におけるコトラーの競争地位を分類してみましょう。眼鏡の利用者は子どもでも増えている時代ですし、とても身近な業界ですから。
眼鏡業界の比較記事も参考のために貼っておきます。
https://dime.jp/genre/1443764/#google_vignette
地位 | 代表的な企業 | 戦略 |
---|---|---|
リーダー | 眼鏡市場 | 店舗数は業界No.1。老若男女のニーズに合わせたラインナップ。 |
チャレンジャー | JINS | ブルーライトカットの先駆者。安くても機能性が高いのが売り。スマホアプリ開発やオンライン販売にも力を入れている。 |
フォロワー | Zoff、OWNDAYS | ZoffもOWNDAYSも価格やお洒落さが売り。 |
ニッチャー | 999.9(フォーナインズ) | 品質にこだわった高級眼鏡。 |
リーダーは眼鏡市場
店舗数を調べたらNo.1は眼鏡市場でした。ラインナップの広さや老若男女問わず広い顧客がいることから、いかにも大手かつリーダーの地位にある企業と言ったところですね。
確かに店舗もよく見かけます。特にサイクリング中に郊外で見かける眼鏡屋はまず眼鏡市場ですね。ターミナル駅や商業施設だとJINSやパリミキが多いですけど。
チャレンジャーはJINS
眼鏡市場の次に売上高や店舗数が多いのがJINSです。色々な所に店舗を出していますし、ユーザーも多いでしょう。
JINSと言えばブルーライトカットを広めたというイメージがあります。また技術に取り組んでいる会社というイメージが強く、機能性が高い眼鏡が多いです。
更にはスマホアプリで自分の顔に眼鏡をかけた状態を確認できるバーチャル試着ということもできます。IT投資にも力を入れている会社です。
フォロワーはZoffやOWNDAYS
JINSより売上高や店舗数が落ちる中堅がZoffやOWNDAYSです。どちらも価格が安くておしゃれであることを売りにしています。
OWNDAYSは一時期TVCMがよく流れましたね。「目がマンガみたいになってますよ」というセリフがとても記憶に残っています。
ニッチャーは999.9(フォーナインズ)
フォーナインズは軽く5万円はするような高級眼鏡です。
公式ホームページで店舗の写真を見ても、明らかに高級店の雰囲気です。こういうブランドは万人向けではなく、こだわる人向けです。よってニッチャーに該当します。
終わりに
マーケティングは悩ましいですが、売上を増やすために重要です。そしてマーケティング戦略を考える上で、自社の業界内での地位に応じた戦略を選ぶことは重要です。
コトラーの競争地位戦略は自社の業界内での地位に応じた戦略を教えてくれます。有効に活用していきたいものですね。
今回は自動車、カフェ、眼鏡という身近な3つの業界で、コトラーの競争地位戦略に当てはめた例を解説しました。あなたもご自身が所属する業界や、興味がある業界についてコトラーの競争地位戦略を当てはめてみてください。