リソースベーストビューとVRIOフレームワークについて解説!実在する企業の例付き
今回はリソースベーストビューとVRIOフレームワークについて解説します。
企業の強さ、すなわち競争力や業績を上げる力は経営資源に大きく影響を受けます。経営資源に着目した戦略論がリソースベーストビュー、略してRBVです。
もちろん企業の強さを決めている要因は経営資源だけではありません。しかし持っている資源を活かすことはとても重要であるため、リソースベーストビューは重要な観点と言えます。
また経営資源を知るためのフレームワークとしてVRIO分析というものが存在します。
今回は実在する企業を例としてリソースベーストビューとVRIO分析のやり方を解説します。ロジカルシンキングや経営戦略を学んでいる方、ビジネススキルアップに励みたい方の参考になれば幸いです。
最初に参考書籍を挙げてきます。私が持っている書籍の最新版です。長く増刷されているフレークワークの書籍ですが、AI時代になって新版になりました。
最強フレームワーク AI時代の知的生産力が劇的に高まる [ 永田 豊志 ]
リソースベーストビューとは
冒頭にも書きましたが、リソースベーストビューとは経営資源に着目した戦略論です。
経営資源とは人、物、金、情報とよく言います。
もうちょっと具体的に言うと、現金預金などすぐ使える資金、人が持つ技術力や営業力、組織として積み上げたノウハウや仕組み、ブランド力なども経営資源でしょう。
リソースベーストビューはジェイ・バーニーという学者が提唱した戦略論です。そして企業戦略論という書籍でリソースベーストビューとVRIO分析が解説されています。欧米のMBAでも使われている書籍とのことです。
[新版]企業戦略論【中】事業戦略編 戦略経営と競争優位【電子書籍】[ ジェイ・B・バーニー ]
私はDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでいくらかは読んだことがある気もしますが、企業戦略論を買って読んでみたいと思います。
またもう1つの観点として、経営資源を活用する能力も重要です。いくら経営資源を持っていても、活用できなければ意味がありません。
優秀な人材がいても、能力を発揮できる仕事がなければいけませんし、レアメタルを持っていても、販売先の開拓や製品にできる技術力がなければ意味がありません。
VRIO分析とは
VRIO分析は経営資源やそれを活用する能力を4つの観点から分析するフレームワークです。
4つの観点とは経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)です。
経済価値とはお金に換金できるというよりも、市場で競合に対して優位に立てるかという意味になります。知財がいい例です。
希少性は言うまでもなく珍しいという意味です。例えば石油やレアメタルを産出できる場所の権利を抑えているとか、産出するための機械を持っているなどはいい例でしょう。
模倣困難性は真似するのが大変かどうかです。例えば真似しやすくて競合が増えすぎた例にタピオカがあります。一方で発電、石油、通信などは大規模な設備が必要なため、模倣は困難です。真似しようにも莫大な資金が必要です。
組織は人事制度や生産性の高い業務プロセス、組織文化、組織として積み上げたノウハウなどが該当します。組織力という言葉で表現されるもので、組織論を勉強すると出てくる話ですね。
VRIO分析のやり方
続いてVRIO分析のやり方を観点毎に解説していきます。やり方としては、4つの観点それぞれについて自社の現状を問うという形になります。
経済価値(Value)に関する問い
経済価値に関する問いは次のようなものがあります。
- その経営資源は自社にとって付加価値をもたらすか?
- その経営資源は自社にとって競争優位をもたらすか?
- その経営資源は競合を無力化できるか?
- その経営資源は脅威を無力化できるか?あるいは機会に変えられるか?
あくまでも市場での競争や機会の獲得、脅威の回避などが経済価値であり、お金に換金した際の価値ではありません。それが解れば管理会計で判断しやすいかもしれませんが、難しいのが現実ですね。
希少性(Rarity)に関する問い
希少性に関する問いは「その経営資源は競合他社があまり持っていないものか?」です。
持っている企業が少ない経営資源なら高い価値が付きます。需要と供給の関係を考えてみると、供給に対して需要が少ない場合は価格が上がります。つまり希少な経営資源は高い価値が付き、他社から仕入れると高額になるのです。
例えば電化製品を作るのにレアメタルが必要な場合を考えてみましょう。レアメタルは希少ゆえ高い価値が付きます。つまりレアメタルを仕入れるためにかかるコストは高いということです。
だから自社でレアメタルを採掘できる場所を持っていると、仕入れるよりは安くレアメタルを入手できます。
石油も同様です。多くの乗り物を動かすために石油が必要にもかかわらず、石油を沢山採掘できる場所は限られています。それゆえ石油の採掘権を持っている企業は大きな利益を稼げます。
また2010年以降にビッグデータが流行り始めてからは、データが第二の石油と呼ばれるようになりました。データを主にマーケティングに活かせるからです。
Tポイントカード(今はVポイントになりましたが)などは色々なお店が加入することで、多くの業態・業種での多くの顧客層のデータが沢山手に入るため、データ分析に活用できるという特徴がありました。
データを沢山入手できれば、匿名化してマーケティングデータとして販売でき、稼ぐことができたのです。
しかしデータを沢山入手するためには、大企業でなければ難しいです。事業や展開地域が広いか、多くの企業に参加してもらう仕組みが必要です。
模倣困難性(Inimitability)に関する問い
模倣困難性に関する問いは次のようなものがあります。
- その経営資源は真似しにくいか?
- その経営資源を手に入れるのに高いコストがかかるか?
真似しやすいということは、タピオカのように競合が沢山現れてしまうということです。競合が多くなればレッドオーシャンとなり、価格競争に陥ります。
逆に真似しにくくて競合が少なければ、そのお店でしか手に入らない、その企業からしか製品・サービスを購入できないということになりますので、高い価格を付けられます。
独占を考えてみると解りやすいでしょう。独占は法律で禁止されていますが、独占をもし実現できれば、競合がいないゆえに価格を自由に決められるので、利益率を簡単に上げられます。
自転車業界のシマノは、自転車部品をブレーキや変速機、ギア、レバーなどをまとめてコンポーネントという概念で販売しています。グレードがいくつか別れており、同じグレードの部品群を使うことに最適化されています。
全ての部品を別々のメーカーのもので揃えた場合、互換性の問題が発生します。組み合わせて動いたとしても相性がいいとも限りません。そこで自社部品で一式揃えて互換性や相性も最適化して売っているのがシマノです。
このコンポーネントという概念で製品開発している企業は、シマノの他ではイタリアのカンパニョーロ、アメリカのスラムくらいしかいません。そしてシェアではシマノが圧倒的に高いため、シマノは高い利益率を誇ります。
またシマノは値上げをよくすることでも知られています。ほぼ寡占状態なので、値上げしてもユーザーはシマノ製品を使わざるを得ません。それゆえ価格交渉力も高いのです。
そしてこのコンポーネントという部品を全て一式揃えた展開をするためには、莫大な開発コストがかかります。自転車部品メーカーは数多くあれど、世界で見ても3社しか手掛けていないのですから。
開発人員と資金の2つの面でとても模倣困難です。
組織(Organization)に関する問い
組織に関する問いは次のようなものがあります。
- その経営資源を活用する組織的ルールがあるか?
- その経営資源を効果的に活用できているか?
- その経営資源を活用できる組織文化があるか?
いくら希少な資源を持っていても、活用できなければ意味がありません。
例えば理系大学院卒の人を採用したら研究開発やデータサイエンスなどに取り組んでもらった方が能力を活かせるでしょう。しかしそのような部門がない会社が理系大学院卒の人を雇っても、やってもらう仕事に困るでしょう。
開発経験が豊富な経験者を採用したら、やはり開発で活躍してもらうのがいいでしょう。それなのに営業とか事務に配置しても今一活かせず、本人もミスマッチから離職してしまう恐れがあります。
一方で私が今所属している会社では、自分が関心があるテーマを追求している社員が多いです。自分から勉強する人ばかりなのですが、それでも会社として勉強会や社内研修を提供しています。
なぜかというと社員の知的好奇心を満たせるからです。知的好奇心が高い人は、学ぶ機会があれば積極的に参加します。
こうして会社が社員の知的好奇心を満たすことで、社員のスキルアップを図っています。それによって社員のパフォーマンスが上がるから単価も高くなり、業績も上がります。
これこそが人という重要な経営資源を活かす組織の活動です。
VRIO分析をやるメリット
VRIO分析をやることで、自社が持つ経営資源を洗い出すことができます。そしてそれぞれの経営資源の有効性や、現時点での活用度などが解ります。
また経営資源やその活用について考えることで、会社をよりよくするための施策を考えることにもつながるでしょう。
経営資源の活用についてできていることとできていないことを洗い出すことで、自社の強みや弱みも解るでしょう。
自社をよく知るためにもVRIO分析をやってみると有効でしょう。
リソースベーストビューとVRIO分析の注意点
リソースベーストビューもVRIO分析も、その他もフレームワークも同様なのですが、当てはめて終わりでは行けません。
分析してフレームワークに当てはめてみて、そこから何を知り、どういうアクションを起こすかが大事です。
リソースベーストビューとSCP理論の対立
リソースベーストビューと対立している戦略論としてSCP理論というものがあります。
SCP理論とは
SCP理論は経済学から来た理論です。独占に近ければ近いほど利益率が高まり、完全競争になるほど利益率は低くなるというものです。これは実感として解りやすいでしょう。
実際に規制が強い医療や製薬、金融、マスコミ、電気・ガス・エネルギーは給与水準が高い傾向にあります。高い給与を払えるということは儲かっているということでもあります。
競争の激しい小売や飲食は給与水準が低い傾向にあります。これは競争が激しいゆえ価格競争が起きやすいからです。
SCP理論についてはDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューのサイトに記事がありますので、詳しく知りたい場合は読んでみてください。
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/10197
リソースベーストビューとSCP理論は観点が違うので両方使えばいい
以前からリソースベーストビューとSCP理論は対立関係にありました。どちらが優れているというありがちな論争です。つまりどちらを使った方が企業の競争優位を説明できるか争っていたわけですね。とてもナンセンスな話です。
リソースベーストビューは自社の経営資源に着目し、SCP理論は業界構造に着目するというように、視点が違います。
いわばリソースベーストビューは内部環境、SCP理論は外部環境に着目しているのです。観点が違うのだからどっちが優れているというより、両方使えばいいじゃんというのが私の考えです。
これについて私は早稲田ビジネススクールの入山先生のセミナーに出たことがあります。そしたら実は組み合わせるという方法が昔からあったという話を聞きました。
入山先生はかつて学者仲間に「リソースベーストビューとSCP理論の対立ってどう思う?」と聞いたら、「お前まだそんな古いこと言ってんの?もうとっくにケリがついてるじゃん」と言われてしまったとのことでした。
そこで紹介された論文がこのセミナーのお土産となりました。リソースベーストビューとSCP理論をマトリックスで組み合わせて使うという論文でした。
これについては入山先生の著書である世界標準の経営理論にも書かれているようですので、気になるようでしたら読んでみてください。
VRIO分析の例
それでは実在の企業を例にVRIO分析をしていきましょう。
ミスタードーナツをVRIO分析した例
まずは有名なドーナツチェーン店であるミスタードーナツをVRIO分析してみましょう。選んだ理由は多くの人が知っていて、なおかつ私も子どもの頃から今でも通っているお店だからです。
私がミスタードーナツをVRIO分析した例を掲載します。
観点 | 分析内容 |
---|---|
経済価値 | ・ドーナツのお店と言えばすぐ思いつく認知度(ブランド力) ・長年愛される定番商品。 |
希少性 | ・大手ドーナツチェーン店は少ない(ブランド力) |
模倣困難性 | ・ドーナツ店でミスタードーナツほどの認知度や利用頻度を実現するのは困難 (ブランド力) |
組織 | ・美味しさを実現するための店内調理 (標準化された業務オペレーション) ・他社とのコラボによる限定品の開発 ・フランチャイズ展開 ・社内コンテストによる従業員の自己研鑽の推進 |
ミスタードーナツの経済価値に関する解説
ドーナツを食べたいと思ったときに、真っ先に思いつくドーナツのお店はどこでしょうか?近所にこだわりの個人店があれば、そのお店が真っ先に思い浮かぶかもしれませんし、一番おいしいと感じているかもしれません。
しかしどこに行ってもお店があって、定番のお店というとミスタードーナツではないでしょうか?認知度はとても高いでしょう。
ミスタードーナツの認知度に関する調査もあります。この記事では認知度が86.4%、利用経験が75.5%ととても高いです。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000037.000060722.html
こちらの記事ではカフェチェーン店と比較していますが、利用したいかどうかでドトール、タリーズ、サンマルクカフェなど定番チェーン店より上です。人気が高いですね。
https://news.allabout.co.jp/articles/o/29936/
次に商品に目を向けてみましょう。
ミスタードーナツというブランドの歴史は長いですが、定番商品の歴史も実は長いのです。
長く愛される定番商品は安定した売上につながります。これは十分に経済価値があると言えるでしょう。
https://www.misterdonut.jp/torikumi/wbcfd/donut.html
ミスタードーナツの希少性に関する解説
ミスタードーナツの希少な経営資源が中々思いつきませんでした。しいて挙げるなら経済価値同様にブランド力でしょう。
ドーナツのチェーン店と言えばミスタードーナツとクリスピークリームドーナツです。ドーナツを置いているカフェでしたらスターバックスやタリーズも入りますが、ドーナツが看板商品のチェーン店は意外と少ないです。
ミスタードーナツの模倣困難性に関する解説
正直言うと模倣困難性も思い付きませんでした。ドーナツ店など飲食店はこだわりの高級店でもなければ参入障壁が低いからです。
しかしあえて挙げるならここもブランド力ですね。ドーナツと言えばこのお店という高い認知度があって、日常的に使われるくらいになるのは簡単ではありません。
特定の地域で定番の美味しい個人店は沢山あると思います。でもどこに行っても大抵の人が知っていて、お手軽に美味しく食べられるお店は少ないです。
ミスタードーナツの組織に関する解説
ミスタードーナツでは企業秘密のミックス粉を使っているそうです。これは模倣が難しいですね。企業がドーナツに参入して味にこだわるなら、小麦粉の選定から入る必要がありますし。
https://www.misterdonut.jp/torikumi/wbcfd/material_01.html
またミスタードーナツは限定メニューとして、祇園辻利とコラボした抹茶ドーナツやポケモンとコラボしたドーナツなどを出しています。認知度や商品開発力があるため、このようなコラボも実現できているのでしょう。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000895.000005720.html
他にもミスタードーナツではフレンドシップフェスティバルという社内コンテストを実施しています。これで賞を取るために自己研鑽に励む従業員がいるわけですね。
https://www.duskin.co.jp/60th/episode/blackcap.html
入賞した従業員だけがブラックキャップを授与されるとのことです。もしブラックキャップをかぶった店員さんに出会ったらラッキーということです。
このような取り組みは従業員のスキルアップにつながるでしょう。
ちなみにこのような取り組みはセブンイレブンも始めているそうです。セブンイレブンだけでなく、やっている企業はありそうですね。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2306/09/news131.html
ニトリをVRIO分析した例
次はニトリをVRIO分析してみましょう。ニトリは家具やキッチン雑貨などで定番のお店であり、使ったことがある方は多いでしょう。私はもっぱらニトリかコーナンで家具や調理用具を揃えています。
私がニトリをVRIO分析した例を掲載します。
観点 | 分析内容 |
---|---|
経済価値 | ・製造物流IT小売業というビジネスモデルによるコストパフォーマンス ・ECサイトによる利便性 |
希少性 | ・低価格の家具チェーン店は少ない(ビジネスモデル) |
模倣困難性 | ・自前の物流網 ・システムの内製化体制 |
組織 | ・多様な職種の業務プロセスの整備 ・IT人材の採用と育成・評価 |
ニトリの経済価値に関する解説
ニトリのビジネスモデルである製造物流IT小売業と「お、ねだん以上。」については、ホームページに記載があります。
https://www.nitorihd.co.jp/division/business_model.html
ニトリは生産や物流を自前でやることで、家具という高価な製品を安く提供することに成功しました。これによって人気を得てきました。
また最近はシステムの内製化にも力を入れており、ECサイトも構築しています。
ECサイトがあることで、家具という重くて持ち運びが困難な製品を配送前提で購入することが可能です。もちろん店頭でも配送手続きはできます。
ニトリの希少性に関する解説
ニトリが希少な点は家具の安さにあります。家具はとても高いです。安さなら圧倒的にニトリです。
家具屋に行くと丈夫でしっかりしていそうな家具が並んでいますが、とても手が出る価格ではありません。
しかしニトリの家具は数千円から購入できるものが多く、ベッドや大型の棚などでも数万円です。
なお最近はコーナンやカインズなどのホームセンターのプライベートブランドでも、ニトリと同程度の価格のものがあります。
しかし私の感想ではありますが、同じくらいの価格ならニトリの方がちょっとだけ作りがしっかりしていると感じることもあります。
ニトリの模倣困難性に関する解説
ニトリの製品は模倣困難性が低いでしょう。特別な素材や特別な技術、特別なデザインをしているわけではなく、似たような製品はホームセンターのプライベートブランドにもあるからです。
ニトリはあくまでもコストパフォーマンスの高さを売りにしている会社です。これは同時に製品を真似しやすいということでもあります。
しかしニトリのビジネスモデルを真似ることは困難だと私は考えています。
生産と小売りを自前でやるSPAは模倣困難とはもう言えないかもしれません。最近はプライベートブランドが増えているからです。
ところが自前で物流網を築くのは困難でしょう。莫大な資金が必要なため、全国区の大企業でなければできません。ニトリのビジネスモデルは製造物流IT小売業です。生産と小売りだけでなく、物流網も自前です。
ニトリの物流網の詳細についてはこちらの記事に詳しく書かれています。
https://bizgate.nikkei.com/article/DGXMZO5104048016102019000000
さらにはニトリはシステムの内製化にも取り組んでいます。
私の記憶では、2010年代後半くらいからITエンジニアの求人にシステムの内製化が増えてきたと感じます。
私は2018年に転職活動をしたのですが、そのときに積極的に内製化のためのITエンジニアを募集していると感じたのが、ユニクロとニトリでした。最近はそういう流れなのかと感じたものです。
システムを内製化するためにはシステム開発の経験が豊富な人材を採用する必要があります。そしてシステム開発の経験として、要件定義や設計、実装技術、テスト手法などに詳しい人材は勿論、マネジメントができる人材が必要です。
特にマネジメントが悩ましい問題となります。IT業界ではマネジメントに失敗して残業地獄に陥り、QCDがボロボロになり、毎月100時間以上の残業をした挙句に納期の延期を繰り返すプロジェクトがあります。
そもそもQCDを守れているプロジェクトが1/3しかないとすら言われるのがシステム開発の世界です。それだけマネジメントが難しいため、マネジメント人材の確保は困難です。
システム開発の経験が豊富な人材を集めてチームを組むとしても、寄せ集めではまともなシステムを作れません。人材の確保だけでも内製化は困難なのです。
少なくとも初期メンバーは年収600~800万円くらいが相場の人材でないと回すのが厳しいでしょう。これくらいのスペックの人材を5人くらい揃えてプロトタイプから作っていくことになると私は考えています。
ちなみにマネジメントに関しては当ブログに記事を沢山書いています。マネジメントのコツや重要性を知りたいと思ったら読んでみてください。
ニトリの組織に関する解説
ニトリは製造物流IT小売業として様々な業務を自前で行っています。ということは職種もとても幅広いはずです。
ホームページにあるビジネスモデルの図を見ても、商品の企画、商品の開発・コーディネート、原材料開発、製造、品質管理、貿易、物流、EC、店舗販売、システム開発とあります。
https://www.nitorihd.co.jp/division/business_model.html
これらそれぞれの職種の業務プロセスや教育内容、評価制度を整える必要があります。
またニトリはシステムの内製化に力を入れています。事業会社がIT人材を採用する場合、新卒や配置転換はまずありません。ITベンダーあるいは事業会社のシステム企画などで経験を積んだ人材を採用します。そうでないと戦力として使えないからです。
経験者採用の場合、その人の経験やスキル、市場価値に合った待遇を用意する必要があります。すると必然的に給与水準が高くなってしまいます。
特にスタートメンバーは即戦力なので、年収600~800万円くらいが相場の人でないと務まらないと私は考えます。また大手ITベンダーや大手ITコンサル会社で豊富な経験を積んだ人材などは年収800~1,000万円はするでしょう。
システム開発を上手く回すには、単にプログラミングを学びましたとか、ITベンダーにいましたという人材ではスキル不足なのです。
ちなみにニトリはニトリデジタルベースというグループ内のシステム会社を持っています。IT系職種もプロジェクトマネージャーやフロントエンド/バックエンド・エンジニア、AIなど複数あります。このように必要な人材も定義できているのです。
https://nitori.snar.jp/index.aspx
ちなみにニトリのIT系職種は目安年収が600~900万円とのことですので、ハイスペックな人材が集まっているでしょう。
https://www.nitori-digitalbase.com/recruit/index.html
実際に私はDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューでカインズやヤマトなどの内製化事例を読んだことがあります。それらの事例に登場した企業は、ITベンダーでマネジメントも含めて開発経験を豊富に積んできた人材を内製化立ち上げの責任者に選んでいます。
これからの時代はITを活用する時代です。しかしITを活用するためには下手な人材では上手く行きません。
またIT人材が活躍するためには、単なる御用聞きではなく、事業部のパートナーとして一緒に課題解決できる立場でなければいけません。社内でそういう認識になるよう、経営陣が後押しする必要があります。
アイリスオーヤマをVRIO分析した例
次はアイリスオーヤマをVRIO分析してみましょう。アイリスオーヤマは元々はプラスチック製品を生産する会社でしたが、最近は主に家電の自社製品を増やしています。私もアイリスオーヤマの家電を持っています。
私がアイリスオーヤマをVRIO分析した例を掲載します。
観点 | 分析内容 |
---|---|
経済価値 | ・メーカーベンダーというビジネスモデルによる コストパフォーマンスが高い自社製品 ・前職が様々なエンジニア |
希少性 | ・メーカーベンダーというビジネスモデルによる 顧客ニーズの収集力 ・ユーザーインというアプローチが定着した文化 |
模倣困難性 | ・メーカーベンダーというビジネスモデル ・自社工場による品質管理 |
組織 | ・職を失った元家電メーカーのエンジニアの積極採用 ・成果さえ上げれば若くても評価される人事制度 ・毎週の製品企画会議 |
アイリスオーヤマの経済価値に関する解説
アイリスオーヤマと言えばコストパフォーマンスが高い自社製品です。
アイリスオーヤマはメーカーベンダーというビジネスモデルを採用しています。メーカーとして自社製品を開発し、自社工場で生産し、問屋の役割も自社で行っています。
https://www.irisohyama.co.jp/company/specialty/
これにより他メーカーと比較すると問屋を通さない分だけ中間マージンを減らせるので、価格を抑えられるのです。結果的にコストパフォーマンスが高くなります。
またアイリスオーヤマは家電メーカーをリストラされたエンジニアを積極採用していることで知られています。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1911/29/news044.html
https://www.mag2.com/p/news/365220/2
アイリスオーヤマの規模を考えると、これらのエンジニアが大手メーカーにいた頃のような給料をもらうことは難しいでしょう。でもエンジニアにとってモノづくりに取り組める環境があるのはいいことです。
何より中年以降になって違う職業に転職することは困難です。リストラされたエンジニアたちにとって職探しは大変だったでしょう。よって家電メーカーのリストラは、アイリスオーヤマにとってはエンジニアを獲得するチャンスとなったのです。
様々なメーカーから来た様々なカテゴリー(メカ、エレキ、材料、ソフト、バイオなど)のエンジニアが集まって、大手メーカーとはまた違う製品開発に取り組むわけですね。
アイリスオーヤマの希少性に関する解説
アイリスオーヤマはメーカーベンダーというビジネスモデルを採用しているという話をしました。
このビジネスモデルはメーカーと問屋を自社が兼ねているというビジネスモデルです。よって問屋として小売店から顧客の声を集めることができます。それをメーカーであるがゆえに次の製品開発に活かせるのです。
アイリスオーヤマはマーケティングのアプローチとして、プロダクトアウトでもマーケットインでもないユーザーインという方法を取っています。
https://www.irisohyama.co.jp/plusoneday/column/168
https://www.jmac.co.jp/hint/065.html
プロダクトアウトはメーカーがいいと思う製品を作ること、マーケットインは顧客が欲しいと言っている製品を作ること(顕在ニーズでもありますね)です。
ユーザーインはユーザー目線で見てユーザーの役に立つものを作ることです。アイリスオーヤマは小売店から顧客の声を集めることで、ユーザーが何を考えているかを把握するわけですね。マーケティング用語で言うところのインサイトを得るわけです。
こうして得たユーザー目線の気付きを、自社の多様なエンジニアたちが製品に活かすのです。
このユーザーインというアプローチはアイリスオーヤマ以外で聞いたことがありません。私がマネジメントの論文を読んでいても聞いたことがない方法です。
これは十分に希少です。しかしVRIO分析は経営資源に着目したフレームワークですので、ユーザーインというアプローチを日常的に使っている組織文化という意味合いで「ユーザーインというアプローチが定着した文化」と先ほどの表に書いています。
アイリスオーヤマの模倣困難性に関する解説
メーカーベンダーというビジネスモデルはあまり聞きません。つまりやっている企業は少ないのです。
一方で自前で工場と物流センターを構築するには莫大な資金が必要です。
ということはメーカーベンダーというビジネスモデルは模倣困難性が高いと言えます。
そしてこのメーカーベンダーというビジネスモデルがアイリスオーヤマの強みであるコストパフォーマンスやユーザーインを実現しています。
またメーカーベンダーというビジネスモデルを取っているがゆえ、自社工場を揃えています。そして中国の工場でも日本レベルの品質基準を設けているとホームページに書かれています。
https://www.irisohyama.co.jp/company/specialty/
企画や設計は自前でやって、生産は委託というケースは少なくないでしょう。自前で生産までやるには設備投資にお金がかかりますので。
アイリスオーヤマの組織に関する解説
先ほども解説しましたが、アイリスオーヤマは家電メーカーをリストラされたエンジニアを採用しました。最初はチャンスと思って採用したかもしれませんが、この人たちが活躍できるような環境の整備も必要です。色々と試行錯誤したでしょう。
今では前職も専門も様々なエンジニアが活躍していることから、エンジニアのための制度もできているのだと考えられます。
アイリスオーヤマにはエンジニアやデザイナーの採用サイトがあります。
https://www.irisohyama.co.jp/recruit/development/
またアイリスオーヤマは実力主義の雰囲気が強いかもしれません。以前TVでアイリスオーヤマの制度を見たのですが、30歳手前くらいのリーダーで年収500万円台前半の社員が出ていました。平均的に見ると高い方でしょう。
アイリスオーヤマでは成果さえ出せば、つまり売れる製品さえ作れれば高く評価され、収入がアップすると考えられます。360度評価もあるため、その人は本当に高い成果を上げているのか?を周囲からチェックされた上で給料が決まるでしょう。
「アイリスオーヤマ 実力主義」で検索すると求人サイトの記事が何件か引っかかります。
https://dymscout.jp/column/85085
そして何と言ってもアイリスオーヤマの最大の特徴と言えるのが、毎週月曜日に行われる製品開発会議です。あなたもこれをTVやニュースで見たことがあるかもしれません。
プレゼンテーション会議と呼ばれていて、開発者が開発した製品を自ら会社の上層部にプレゼンする会議なのです。ここでいい製品は経営陣が即断即決するのです。このスピード感は他社では真似できないでしょう。
そしてここで経営陣が即断即決した製品が生産されて市場に出回るのです。全てがヒットしているわけではないでしょう。しかしこの会議によって多くの製品アイディアが生み出され、実現されて、製品が売れるかどうかの経験値を沢山獲得できると私は考えています。
終わりに
今回はリソースベーストビューとVRIO分析について解説しました。理解を深めるためには書籍も是非読んでみてください。
[新版]企業戦略論【中】事業戦略編 戦略経営と競争優位【電子書籍】[ ジェイ・B・バーニー ]
企業の強さを測ることは単一の観点だけではできません。様々な経営理論やビジネスフレームワークが世の中には存在します。それをいくつか組み合わせて、外部環境や内部環境、事業の展開方法や事業間のシナジー、組織文化や人材育成などを見なければいけません。
企業の強さを測ることは大変ですが、引き出しを着実に増やしていくことが必要だと私は感じています。地道に頑張っていきましょう。